#173
ストロベリーを置いて上がっていくエレベーター。
その中でバニラは階層を示す光を見て、もうすぐ最上階へと到着することを確認した。
「一応飲んでおくか」
ボソッと呟き、ポケットに入れていたドリンクボトルを手に取る。
それから蓋を開けて一気に中身――トランス·シェイクを飲み干す。
先ほどのストロベリーと同じように、バニラは全身を上下に震わせ始める。
それは、まるでバーテンバーがカクテルを作るときに振るシェイカーのような動き――。
そして目の瞳孔が開き、その全身には刺青でも入れたかのような模様が浮かび上がる。
バニラの震えが収まると同時にエレベーター内に到着を知らせる音が鳴り、扉が開く。
この高層ビルの最上階内部へと歩を進めるバニラの前には、スーツ姿の男が二人立っていた。
「なあ、ボボティ。たしか社長が連れて来いって行ってたのは、この白髪だったよな?」
金髪の優男のほう――ウィングがそう言うと、スキンヘッドの男――ボボティがコクッと頷く。
「あぁ、白髪の子供が最優先で、あとは赤毛と黒髪のダークレートとか呼ばれていたヤツを社長はご所望だ」
「じゃあ、ちょうどいいや。最優先が最初に来てくれたし、俺たちの仕事はここまでってとこだな」
バニラは廊下を進んで、ウィングとボボティへと近づいていく。
「そっちのハゲは遊園地で見たな。じゃあ、金髪のほうがレカースイラーか?」
「あん? お前、社長の顔を知らねぇのかよ?」
ウィングがバニラの質問に呆れている。
それも当然だ。
ホワイト·リキッドの襲撃の目的は、スパイシー·インクのボスであるレカースイラーの暗殺なのだ。
そうだというのに、この白髪の少年は標的の顔さえ知らないのかと、ウィングはバニラのバカさ加減に言葉を失うしかなった。
「知らないけど、違うのか?」
「俺が社長のはずないだろうが」
「だと思った。お前もそこのハゲも社長って感じじゃないもんな。見るからに三下だ」
「はぁ……これだからスラムの子供は嫌なんだよなぁ」
苦言を吐いたウィングが向かって来るバニラへと歩を進め、ボボティも彼と並んで前へと歩き始めた。
感情が顔に出ているウィングと、無表情のボボティが実に対照的だ。
ウィングはため息をつきながら言う。
「自分が何やってるのか理解しないで暴れまくる。こいつらはその日その日を暮らしていければいいだけで、どれだけの損害をこの島に出したのか、まるでわかってねぇ」
「俺も同意見だ」
ボボティがウィングに返事をすると、拳をグッと握った。
ウィングのほうも首をボキボキを鳴らし始める。
バニラはそんな向かって来る二人を見て訊ねる。
「オレをレカースイラーのとこに連れてってくれるんじゃなかったのか?」
「やめだやめ。なあ、いいよなボボティ? こんなバカ。社長のところへ連れて行く必要ねぇよな?」
「同意見だ」
ウィングとボボティが言葉を交わし合った瞬間――。
二人は同時にバニラへと飛び掛かってきた。
だが、バニラに動揺はなく。
二人の放った拳を躱して、ダブルラリアットでその首を刈り取るように打ちつける。
「がはッ!?」
「うぐッ!?」
カウンターのような形で入ったその一撃で、ウィングとボボティはフロアの壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
バニラはそのまま何事もなく進んでいき、倒れている二人に声を掛ける。
「ほら見ろ。やっぱ三下だったじゃないか」




