#171
――スパイシー·タワーへと到着したホワイト·リキッドの従業員たちは、それぞれ用意していた銃火器を手に高層ビルに入って行く。
大人数が出入りできる正面にあった自動ドアを通って、ホールのようになっている一階の受付に足を踏み入れると、そこに誰もいないことに気が付いた。
「あれ? 誰もいないじゃん?」
「もしかして、俺たちが来るのがわかって――ッ!?」
ストロベリーがあっけらかんとした様子で言うと、グラノーラが気が付く。
敵はこちらを初めから誘導していたのではないかと。
そして、次の瞬間――。
ホール内に銃声が響き渡った。
突然潜んでいたスパイシー·インクの社員たち――警備員がマシンガンをぶっ放し始めたのだ。
その弾丸の雨で、ホワイト·リキッドの従業員たちが次々に血塗れになって倒れていく。
「全員ッこのフロアから出ろッ! 待ち伏せされてるぞッ!」
グラノーラの叫び声が銃声に交じって一階のフロア中に響き渡ると、ホワイト·リキッドの従業員たちは一斉にバラけた。
それから握っていた銃火器で、各自反撃を始める。
静かだったオフィスの光景から一気に戦場へと変わる。
ここでバニラとストロベリーも渡されていた拳銃とナイフを手に取って、警備員たちに応戦しようと前へと出ようとしたが。
そんな二人にグラノーラが言う。
「お前ら上だ。ここはあいつらに任せろ」
「えッいいの? なんかもうこのままやられちゃいそうだけど?」
「俺たちはレカースイラーさえ殺せればそれでいいんだよ。頭がいなくなりゃ会社は維持できない。そうなりゃ島は良くなる」
「あ、そう。じゃあ、ドリンクまだ飲まなくていいね」
「俺が先導する。とりあえずエレベーターに乗って最上階を目指すぞ」
グラノーラはそう言うと、持っていたサブマシンガンを構えて銃弾の雨を駆け抜けて行った。
バニラとストロベリーも彼の後に続き、ホールのように広がった一階フロアからエレベーターを目指す。
飛び出したバニラたちをスパイシー·インクの社員たちが狙うが、ホワイト·リキッドの従業員たちが援護する。
「兄さんッ! ここは確保しておくから先に上へ行ってッ!」
シリアルの叫び声が銃声をかき消すようにフロアに響き渡ると、グラノーラは妹に背を向けたまま片手を上げて応えた。
だが廊下を走るバニラたちの前には、当然とばかりに警備員らが待ち構えていた。
グラノーラはサブマシンガンで彼らを蹴散らしながら、先ほどの言葉通りに先に立ってバニラとストロベリーを導く。
「スゲーじゃん! グラノーラさんってこんな頼りになるヤツだったんだッ!」
「聞こえてるぞ、ストロベリー。お前は俺のことをなんだと思ってたんだ?」
「ただの老害」
「……生き残ったら本店でお前をしごいてやる」
グラノーラは顔をしかめながら前を走り、立ちはだかる警備員たちを撃ち殺していく。
彼の後を追うストロベリーは、うげぇと表情を歪めていた。
「えー? イヤなんだけどそういうの。しごくならバニラにしてよ」
「なんでオレがお前の代わりにしごかれなきゃなんないんだよ?」
「だってアンタ好きでしょ? しごかれるの」
「好きじゃねぇよ」
呆れて答えるバニラを無視して、ストロベリーがブツブツと呟く。
「はぁ……。グラノーラさん、ここで死んでくんないかなぁ……。あたし、しごかれたくないわぁ……」
「お前がここで死ね」
敵を蹴散らしながらもバニラとストロベリーの会話を聞いていたグラノーラは、その緊張感のなさに呆れながら言う。
「お前らはオレが一からしごいてやるから覚悟しておけ」
「え~ヤダヤダッ!」
「なんでオレまでッ!?」
さらに嫌がるストロベリーと、自分まで巻き添えを食ったことに慌てるバニラ。
そんな二人の反応を見たグラノーラは、静かに笑みを浮かべた。




