#170
――バニラたちがこの人工島テイスト·アイランドの中心にある高層ビル――スパイシー·タワーへと向かっているとき。
そのタワーでは、レカースイラーが生き残っている幹部の二人――。
遊園地でマチャたちを襲撃したスキンヘッドの男――ボボティと、金髪の優男――ウィングと共にいた。
高級感ある本革レザーチェアに座るレカースイラーが二人に訊ねる。
「ホワイト·リキッドのほうは動き出したのか?」
社長の問いに、ウィングが自慢の金髪に手をやって答える。
「はい。言われていた通りに、奴らはこちらの検問を避けてスパイシー·タワーに向かっていますよ」
ウィングはレカースイラーの指示によって、街中に検問を張っていた。
それはホワイト·リキッドの人間を捕まえるためというよりは、敵をこちらへと誘導するために張られた包囲網だった。
そして敵の動向を見張らせていた部下から、今まさにホワイト·リキッドの全員が隠れていた場所を飛び出し、スパイシー·タワーへと車を走らせていること伝えている。
ウィングの話が終わると、彼の隣にいたボボティが口を開く。
「社長。自分からも伝えたいことがあるのですが。よろしいでしょうか」
「構わん。話せ」
レカースイラーの了承を得たボボティは、軽く頭を下げると話を始めた。
これから、このスパイシー·タワーへと向かって来ているホワイト·リキッドの人数自体は大したことはない。
いくら銃火器で武装していようが、こちらの社員たちで十分対応できる。
だが、問題はあの妙な飲料水――ジェラートが作ったと思われるトランス·シェイクを使う少年少女たちだと、ボボティは聞き取りやすい声で静かに言う。
「遊園地でその一人と思われる少女の動きを見ましたが。妙な飲料水を飲んだ様子はなくとも動きは素人はなくなっていました。おそらくここ数ヶ月でかなり鍛えたんだと思います」
「そいつはおっかないな」
ボボティの話にウィングが入って来る。
「チゲの話だと、あいつらは格闘に関しちゃド素人だって聞いてたけど。技術を身に付けたうえにパワーアップされたら手に負えないじゃんか」
「そう。まさにお前の言う通りなんだ」
ウィングにボボティが顔をしかめて答えると、レカースイラーが椅子から立ち上がる。
そして、窓から見える街を見下ろして、彼は笑みを浮かべた。
「面白い。そいつらは屋上に来るように誘導しろ。私が自ら相手してやる」
レカースイラーが着ている道着の胸元を直しながらそう言うと、幹部二人は彼に深く頭を下げた。
それからレカースイラーは、彼らの姿を振り返ることなく、両手の指を動かしてポキポキと関節を鳴らすのだった。




