#169
――襲撃準備を終えたホワイト·リキッドの従業員たちは、各自用意していた車に乗り込んで目的地へと向かっていた。
当然彼ら彼女らが目指すのは、スパイシー·インクの社長であるレカースイラーのいる場所だ。
その場所とはスパイシー・タワー。
この人工島テイスト·アイランドの中心にあるスパイシー·インクの象徴ともいえる高層ビルだ。
ホワイト·リキッド側はずっとレカースイラーを捜していて、最初にその本部ともいえる建物を調べたが。
そのときにレカースイラーの姿は、スパイシー·タワーにはなかった。
だが、ここ数日にモカが調べたところ。
レカースイラーはずっとスパイシー·タワーに出入りしていたようだ。
バニラ、ストロベリーはグラノーラの乗る車で移動しており、ダークレートとカカオはジェラートとシリアル、モカと共に行動。
他の従業員たちも別々にスパイシー·タワーへと車を走らせている。
「グラノーラさん。ちょっと訊きたいんだけど」
「うん? なんだ?」
「マチャはどこにいるんだ? なんか出発前から姿が見えないんだけど」
「俺が知るかよ。きっと別のヤツの車に乗ってんだろ?」
運転するグラノーラに訊ねたバニラだったが。
知りたかったマチャの居場所は、どうやら彼も知らなかったようだ。
少し浮かない顔をするバニラと共に、後部座席に座っていたストロベリーも不服そうに口を開く。
「つーかなんであたしらがバラバラにされてんの? 無敵のあたしらが一緒にいたほうがよくね?」
ストロベリーは、マチャとダークレート、それからカカオを別々に行動することに不満があるようで、グラノーラにその意味を訊いた。
彼女としては、トランス·シェイクを使用できる自分とバニラ。
それからこれまで一度も使ったことはなかったが。
ダークレートともまとまって行動していたほうが良いと思っているようだ。
それと、マチャたちがいないことに違和感を覚えているのだろう。
しかし、グラノーラもチーム分けについては詳しく聞かされていないらしい。
「ジェラートさんの考えだ。たぶんだが、バランスを考えたんだろうな。俺が知っているのは他の奴らは雑魚の相手で、ジェラートさんのチームとこっちのチームでレカースイラーのいる最上階を目指すようには聞かされている」
「そっか。ジェラートさんがそういうならしょうがないね」
ストロベリーは大した理由を聞いていないの納得した。
バニラも口にはしなかったが。
ジェラートの名前を聞いてそれ以上の疑問を持つのを止める。
彼女が間違えるはずなどないと、彼らを含めたホワイト·リキッドの人間は、ジェラートに全幅の信頼を寄せているのだ。
そこに思考を挟む余地は必要ない。
《皆、聞こえてる?》
バニラたちがそんな会話をしていると――。
ホワイト·リキッドの従業員たちが乗る車に付いたハンズフリー機器――スマートフォンに繋がったスピーカーからジェラートの声が聞こえ出した。
彼女はいつもの穏やかな声で皆に向かって言う。
《細かい作戦はない。さっき話したように、ホワイト·リキッド全員をスパイシー·タワーへぶち込む》




