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#167

――マチャはグラノーラに言われた通り。


ジェラートに自分の考えを伝えるため、彼女がいる奥の部屋へと向かっていた。


その途中で見えるのは、銃器類の準備を終えたホワイト·リキッドの従業員たちが食事をしている光景だ。


皆これが最後の戦いだと声を出しながら、意気揚々(いきようよう)と菓子パンを頬張っている。


そう――。


レカースイラーさえ殺せば、スパイシー·インクの支配は終わる。


たとえ誰かが会社を継いだとしても、彼ほどのカリスマ性を持つ人間はいないため、今ほど島への影響力は確実になくなる。


そうなればこの人工島――テイスト·アイランドの支配は維持できない。


軽い言葉で説明するのなら、スパイシー·インクはレカースイラーのワンマン経営なのだ。


だからこそ、これまで彼の居場所を特定できなかった。


以前に、レカースイラーがホワイト·リキッドの本店に姿を現したときがチャンスだと言えたが。


いつも大人数の護衛を連れているため、それもできずにいた。


今回の襲撃は、それを無視したこちらにも大きな被害が出る作戦だ。


だがホワイト·リキッドの従業員たちは楽観的ともいえるほど死を恐れていなかった。


誰も自分が死ぬことなど気にしていない。


マチャも以前は彼らと同じだった。


しかし、今の彼女は恐れている。


バニラ、ストロベリー、ダークレートの死が怖い。


その気持ちは、彼らと暮らすうちに少しずつ大きくなってきていて、マチャから戦意を奪っていたのだった。


「ジェラートさん。ちょっといいですか?」


マチャはジェラートがいる部屋のドアをコンコンコンとノックし、中へ入っていいかを訊ねた。


部屋の中からはジェラートの声で了承する返事が来る。


「失礼します」


「一体どうしたの? あぁ、さっきの話が途中だったもんね」


「いえ、それはもういいんです。私が来たのはその話ではなく……」


「まあまあ、とりあえず座りなよ。今、お茶でも入れてあげるから」


マチャを歓迎するように、ジェラートは椅子から立ち上がって電気ケトルのもとへと向かった。


湯気が立ち、二人分の紅茶を入れ始めた彼女の背中を見ながら、マチャは椅子に座ることなく口を開く。


「ジェラートさん……」


「うん? なんだい? 砂糖とミルクならちゃんとあるよ」


振り返ったジェラートを見て、マチャはまるで彼女を無視するように言葉を続けた。


今回のレカースイラー暗殺作戦に、バニラ、ストロベリー、ダークレート三人を不参加にできないかと。


マチャの突然の頼みに、ジェラートは紅茶を手で持ちながら両方の(まゆ)を下げる。


それから彼女は、テーブルに入れたばかりの紅茶を置くと、その困った顔をマチャへと向けた。


「それは難しいことを言うね」


「あいつらの抜けた穴は私が埋めてみせます。だから……なんとかできないでしょうか?」


今にも泣きそうな顔で訴えてくるマチャ。


ジェラートはそんな(うつむ)く彼女を見て、ニッコリと微笑んだ。

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