#163
「彼らがあの子らを狙っている理由はたぶん――」
ジェラートが話しだそうとした瞬間。
部屋のドアからノックが聞こえてきた。
強い力で叩かれたけたたましい音だ。
その音を聞いてマチャは苛立っていた。
これから大事なところなのに一体誰だと、ドアのほうへと身体を向けて顔を強張らせる。
「すみません、モカです。調べていたことをがわかったので報告に来ました」
「いいよ。入って」
ジェラートがそう言うとモカがドアを開けて入って来る。
モカは以前にホワイト·リキッド三号店――バニラたちが最初に務めていたロッキーロードがマスターをやっていた店にいた少女だ。
彼女はバニラ、ストロベリー、ダークレートとは違い、三号店閉店とロッキーロードが殺された後、ずっとジェラートの傍にいたようだ。
「失礼します」
部屋に入ってきたモカを見て、マチャは違和感を覚えた。
自分の聞きたかった話を邪魔されたことへの苛立ちが消えるほどだった。
それは、以前のモカと今の彼女がまるで違う人間のように見えたからだ。
(この子……モカだよな? あの気弱そうな子が……)
マチャの知っているモカは、いつもビクビクと怯えており、誰が見えても気の小さそうな少女だった。
自分の意見が口にできない、ストロベリーの言いなりになっていた小心者。
それがマチャがモカに持っていた印象だったが。
部屋に入ってきたモカは、そんな以前から考えられないほど落ち着いた感じで、まるで人形ように表情がない。
(この短期間で何があったんだ? それとジェラートさんが調べさせていたことっていうのは……)
マチャがそう思っていると、ジェラートがモカに声をかける。
「思ったよりも早かったね。それじゃ早速報告を聞こうか」
「はい。言われていたレカースイラーの居場所がわかりました」
ジェラートがモカに調べさせていたのは、スパイシー·インクの社長であるレカースイラーの居場所だった。
レカースイラーは、この人工島テイスト·アイランドを仕切る会社の頂点に立つ男。
どうやらジェラートは、前の事件の後に捕えた幹部の一人――リコンカーンから得た情報からモカにレカースイラーの居場所を探させていたようだ。
モカからレカースイラーの居場所を聞いたジェラートは、部屋にいた皆へ言う。
「なら、こっちのやることは決まったね」
「決まったって……。一体どうするつもりなんですか?」
マチャが自分の質問がうやむやになった苛立ちを隠せずに、強い声を出して訊ねた。
そんな彼女へと視線を動かし、ジェラートは言う。
「全員でその場所を行って、レカースイラーを殺す」




