#162
「マチャです。入りますよ」
ドアの取っ手を握ったまま訊ねると、中から「いいよ」という返事が聞こえてくる。
穏やかな女性の声――ジェラートのものだ。
彼女の了承を得たマチャは、シリアルと一緒に部屋の中へと入る。
中に入ると、そこにはシリアルから聞いていた通りジェラートと彼女の兄であるグラノーラがいた。
グラノーラは私服だったが。
ジェラートはホワイト·リキッドの制服であるウエストコート姿だ。
「どこもケガはないみたいだね、マチャ。無事で何よりだよ」
普段通りの微笑みを見せるジェラート。
グラノーラのほうもマチャを見て笑みを浮かべている。
「ジェラートさんこそご無事で。……いきなりですが。この後のことなんですけど」
「うん。ちょうどグラノーラと話していたところなんだ」
ジェラートはマチャの傍に近づくと、グラノーラと話していたことを説明し始めた。
現在の状況はやはりマチャの想像していたように、スパイシー·インクのすべての社員が動いているようだ。
これまでの幹部が個々で襲ってくるのはわけが違う。
この人工島テイスト·アイランドすべてが敵になったと考えるべき状態だ。
ホワイト·リキッド一号店――本店はその圧倒的な数の力で半壊させられ、生き残ったのは偶然店にいなかった従業員たちのみ。
今もまだ街にはそこら中に警備服の社員たちが巡回しており、見つかればホワイト·リキッドと関わっていたというだけで拘束――または始末されるだろう。
ここからの反撃はかなり難しいと思われると、ジェラートは言う。
説明を聞いたマチャは思う。
それは話を聞かなくてもわかる。
自分が聞きたいのは、何故スパイシー·インクが――遊園地で襲ってきた幹部のボボティがバニラたちを狙っていたのかだ。
「あのジェラートさん」
「うん? どうしたのマチャ?」
「いえ、少し気になることがありまして」
だが、どうしてスパイシー·インクがバニラたちを狙っているのかが話題に出なかったため、しびれを切らしたマチャが自ら訊ねようとしていた。
その様子を見ていたシリアルは、その内心で驚いていた。
部屋の入るときからそうだったが。
マチャはノックもせず、今はジェラートが説明している最中だというの話の腰を折った、
ジェラートを慕い、いつも敬意を表している彼女から考えられない態度だ。
それは部屋にいたグラノーラも同じで、マチャがどうしてそんなに焦っているのかを、兄妹は不思議に思っていた。
そんな空気の中、マチャがジェラートに向かって言葉を続ける。
「奴らの幹部のボボティという男が言っていたんですが。どうしてだが、連中はバニラやダークレート、ストロベリーのことを狙っているようなんです」
「ふーん、そう」
「ジェラートさんは何か知ってるんじゃないですか?」
少し強い言い方で訊ねたマチャに向かって、視線をそらしたジェラートが口を開く。




