#158
それから街へと車を走らせ、グラノーラはジェラートに言われていた隠れ家へと向かう
「ほらカカオ。いい加減に元気だしな。大丈夫だって、ダークレートもマチャもきっと無事だよ」
力無く俯いているカカオを、ストロベリーが励ましている。
その後部座席でのやり取りを助手席から一瞥したバニラは、窓から外を見る。
今日は休日だ。
いつもならこの時間帯は人でごった返しているはずなのだが。
どうしてだが人っ子一人いない。
「なあグラノーラさん」
「なんだ? 遊園地には戻れねぇぞ」
「いや違くて。なんか人が少なくないですか?」
バニラの言葉を聞いたグラノーラは、しかめていた顔をさらに強張らせた。
彼もすでに気が付いていたのだ。
この街から人が消えている状況に。
グラノーラは答える。
おそらくはスパイシー·インクの本社が動いており、島の住民たちに外へ出ないように伝えられているのだろう。
急がないと、すぐにでも警備員たちが現れ、すぐに捕らえられてしまうと、彼は言葉を続けた。
「この状況だと車は捨てて、歩いたほうがいいかもな」
「えー。あたしもう歩きたくないんだけど」
「オレも」
バニラとストロベリーは走り疲れたのか。
わかりやすく嫌そうな顔をして文句を言った。
「お前らなぁ……。ワガママ言うなよ。ったく、敬語を使えるようになったかと思えばこれだ……。マチャも甘くなったもんだな……」
ブツブツと独り言を口にしたグラノーラは、大通りから狭い道へと車を走らせた。
――バニラとストロベリーがグラノーラと移動していたとき。
マチャとダークレートは、遊園地を脱出して街へと向かっていた。
遊園地内で奪ったクレープの移動販売車に乗って、ボボティらスパイシー·インクの追撃をなんとか逃れる。
「はぁ、せっかくのんびりと休日を楽しんでいたのに……。せめてもの救いは、クレープ食べ放題にありつけたことだよぉ……」
助手席でフルーツと生クリームたっぷりのクレープを手にして言うダークレート。
彼女は密かに遊園地の後に行くつもりだった水族館への予定が狂わされ、肩を落としながらパクパクとオリジナルトッピングしたクレープを頬張る。
「そう落ち込むな。また連れて行ってやるから」
「絶対だからね。バニラとストロベリーは水族館をバカにしてたけど、あいつらだって行ったら絶対に楽しんだから」
常識がないバニラと、まだまだ子供っぽいストロベリーが一緒にいるせいか。
普段こそしっかりしているダークレートだが。
マチャと二人きりのときは、年相応の少女に戻る。
そんな自分にだけ見せるダークレートの態度に、マチャは煩わしさよりも好感を覚えていた。
そうだ。
また皆で行けばいい。
そう思いながら、こんな状況だというのについ笑みがこぼれる。
「ダークレート。一応ジェラートさんやホワイト·リキッド本店のほうへ連絡しておいてくれ。これだけの規模の襲撃だ。店のほうも安全とは思えない」
「うん。わかった。クレープ食べたらね」
「今やれ」
ブスッと頬を膨らませながら、クレープを丸呑みしてスマートフォンを操作するダークレートを見たマチャ。
こぼれた笑みがさらに笑顔になった彼女は、ハンドルを握りながら言う。
「それと、連絡が終わったら私にもクレープをくれ」
「はいはい。わかりましたよ~」




