#155
バニラとストロベリーはすぐに走り出したが。
ダークレートだけは一人残っていた。
マチャは背中でそれを感じ取り、彼女へ声をかける。
「おい、私は先に行けと言ったんだが?」
ダークレートはマチャの言葉を無視して、彼女の横に並ぶと隠していたサバイバルナイフを手に取る。
それから分厚い刃を構え、向かって来る警備員たちを睨みつけた。
「アタシも残るよ」
「お前なぁ……」
「だってここでマチャが頑張っても、この人数だとマヌケなあいつらじゃ捕まっちゃうかもでしょ? それに、カカオだけでも無事に逃げてほしいしね」
相変わらず責任感の強い奴だと思いながら、マチャも身構える。
ダークレートが隠していたように、彼女もまたポケットから二本のタクティカルペンを出して逆手に握る。
「ある程度片付けたらお前も逃げろよ」
「マチャもね」
二人はそう言葉を交わし、飛び込んできた警備員を迎え撃つ。
マチャは手を伸ばしてきた警備員の懐に入り、両手に持ったタクティカルペンを下から挟むように顎へと放つ。
ダークレートのほうも避けながらサバイバルナイフを振るい、刃物で怯んだ相手へ金的をを喰らわせる。
だが、スパイシー·インクの社員たちは次々と向かってくる。
二人に休む間を与えることなく飛び掛かってくる。
一人倒してもまた一人と、切りのない戦いが始まった。
「こいつら全然大したことないね。マチャが鍛えてくれたおかげで楽勝だよ」
「相手が格下だからってペース配分を忘れるなよ。戦い続ける体力と逃げるだけの余力は残しておけ」
「はいはい、安心してよマチャ。アタシはバニラやストロベリーとは違うんだからッ!」
遊園地の至るところにあるスピーカーからのん気な流行歌が流れる。
それに似合わない凄惨な光景が、マチャとダークレートによって作り上げられていった。
ダークレートの振るうナイフで血が撒き散らされ、マチャが放つタクティカルペンを喰らった男たちの歯や眼球が転がっていく。
「たかが女二人に何を手間取ってるんだ!」
その様子を見て、ようやく姿を現した幹部の一人ボボティが吠えた。
彼に言われ、社員たちはマチャとダークレートに飛び掛かっていくが。
二人は互いに背中を守り合い、誰一人としてバニラたちを追いかけさせない。
「おいハゲ。偉そうに命令してないで、お前が来いよ」
「おッめずらしい。マチャが相手を挑発するなんて」
「そうか?」
「うん。なんかストロベリーみたい」
「そっか。フフフ……」
余裕を見せるマチャとダークレート。
スパイシー·インクの社員たちは、いつの間にか足が止まり、彼女たちに近づけないでいた。
この数を相手に圧倒的な強さを見せた二人に、うかつに近づけないようだ。
すると、その様子を見たボボティが、社員たちを押しのけて二人の前へと出てくる。




