#154
そのとき、周囲の異変にダークレートが気が付く。
いつの間にか他のテーブルから客がいなくなり、売店が閉まっていた。
「ちょっとみんな。なんかおかしいよ」
「まさか……?」
マチャがそう言うと、遊園地の警備員たちが彼女たちのいるテーブルの側に集まっていた。
その中から、スキンヘッドのスーツ姿の男がゆっくりと前へと出てくる。
「お楽しみのところ悪いが、一緒に来てもらうぞ」
スキンヘッドの男はかけていたサングラスを外し、名乗りもせずに声をかけてきた。
マチャはこの男のことを知っている。
そう――。
このスキンヘッドの男は、スパイシー·インクの幹部の一人であるボボティという男だ。
いきなり警備員を引き連れて現れたボボティに、ストロベリーが顔をしかめる。
「なんだぁ、このハゲ? あたしに気安く話しかけんな。ナンパしたいなら毛が生えてから来い」
「ハゲはナンパしちゃダメなのか?」
明らかに相手は敵――スパイシー·インクなのだが。
見当違いなことを言ったストロベリーに、バニラもまた場違いなことを訊ねている。
そんな二人と警戒するダークレートに向かって、マチャが言う。
「数が多いな。ここはバラけて逃げるぞ。合流場所は一昨日泊まったホテルにしよう」
「オッケー。ナンパからは逃げるのは当たり前だよね」
ストロベリーはまだ見当違いなことを口にすると、バニラが彼女を無視してマチャに訊ねる。
「倒しちゃえばいいんじゃないか? この人数ならなんとかなるだろ?」
「バカだな、お前は。今日はあたしら、ドリンク持ってきてないんだぞ」
「そうだった。じゃあ、逃げるか」
バニラはそうストロベリーに返事をすると、プラスチック製のテーブルを持って警備員たちへ突進。
彼に続いて、マチャ、ダークレート、カカオを抱えたストロベリーも走り出す。
まさかテーブルを使ってくるとは思わなかったのだろう。
スパイシー·インクの社員たちは浮足立ち、バニラたちはそんな敵の包囲を突破する。
「逃がすなッ! 緑髪の女は殺していい! あとのガキどもは絶対に俺の前に連れて来い!」
走るバニラたちの後ろからは、ボボティの怒鳴り声が聞こえてきていた。
その怒声を聞いて、ダークレートが皆に言う。
「あいつらってさ。なんかアタシらだけ扱いが違うよね? 前のリコンカーンってヤツもそうぽかったけど」
ダークレートの言葉に、ストロベリーがどうでもよさそうに返事をする。
「スパイシー·インクの社長が子供好きの変態なんじゃないの? ま、あたしとダークレートはわかるとしても、バニラはないわ~」
「オレもお前にはそういう感情は湧かない」
「あんッ!? うっせぇよ! 言い返してんじゃねぇ!」
軽口を叩き合うバニラとストロベリーを見て、呆れているダークレート。
カカオもストロベリーに抱かれながら「こんなときケンカしないでよぉ」と鳴いている。
そんな彼らを見て微笑んだマチャは、突然足を止める。
「おいマチャッ!? なにやってんだよッ!?」
――バニラ。
「早く逃げないと捕まっちゃうよ!?」
――ストロベリー。
「バラけて逃げるんじゃなかったのッ!?」
――ダークレート。
カカオも大声で鳴き、バニラたちも足を止めて、彼女に急ぐように叫んだ。
だが、マチャは――。
「数が多過ぎる。少し減らしていくから、お前らは先に行ってろ。必ずバラバラに逃げろよ」
そんな彼らに背を向けたまま返事をし、さらにその口角を上げていた。




