#152
――バニラは、マチャたちと共に初めてアミューズメントパークへと来ていた。
人工島テイスト·アイランドにある唯一の遊園地で、ジェットコースターに観覧車――。
お化け屋敷やミラーハウスなどを、自分たちよりも幼い子供たちに交じって楽しんでる。
「次はあれ! 次はあれに乗ろうッ!」
彼らの中で誰よりも楽しんでいるのはストロベリーだ。
彼女は昔から遊園地に来たかったようで、それがようやく叶い、いつも以上に周りのことを気にせずにはしゃいでいる。
そんな元気いっぱいのストロベリーに連れ回されるかのように、バニラとダークレートもゴーカート乗り場に並ぶ。
「ねえ、誰が一番速いか競争しよう」
「少しは落ち着きなさいよ。他にも子供がいるんだし」
「いいじゃんいいじゃん。今日だけはいいじゃん!」
今日だけじゃないだろうと思いながらも、ダークレートはストロベリーに呆れながらも微笑みを返していた。
ダークレートもバニラも態度にこそ出していないが。
ストロベリーと同じように内心で喜んでいる。
「遅いぞバニラ! ダークレート! あたしが一番だッ!」
「コラッストロベリーッ! 他の子に迷惑かけるなよ」
それからゴーカートに乗り、同じようにカートを走らせている子供らとぶつかりながらも前を走るストロベリーに、ダークレートが声を張り上げている。
一方のバニラはノロノロと最後尾を走り、周囲の光景を見ながらハンドルを握っていた。
「あいつらは、どこへ行っても同じだな」
一人ゴーカートに乗らなかったマチャ。
彼女はサーキット場の側にあるベンチに座り、小熊のカカオを抱いてバニラたちのことを眺めている。
そんなカカオもマチャに同意しているのか。
ため息をつくようにガウガウ鳴いている。
「でもまあ、楽しそうにしているから良いか。なあ、カカオ」
そんな胸の中にいる小熊の頭を撫でながら、マチャは嬉しそうにしていた。
そのときの彼女の表情は、ここへ来てよかったと、本心から思っていそうなものだった。
島の支配者――スパイシー·インクの壊滅などという血生臭い仕事から離れて、よくある家族の休日が、マチャに安らぎを与えていた。
「なんだカカオ? あぁ、ちょっと待ってろ」
腕の中で鳴いたカカオをベンチに下ろし、先ほど売店で買ったホットドックを食べさせるマチャ。
カカオは味わうようにゆっくりと咀嚼し、口の周りについたケチャップやマスタードを、一緒に置かれたペーパーナプキンを使って自分で拭いている。
「お前は熊なのに、あの二人よりも食べ方が綺麗だな」
バニラやストロベリーよりも上品に食事をするカカオを見て、マチャはつい口に出してしまっていた。
そんな彼女を見上げたカカオは、「当たり前だよ」と言わんばかりに鳴き返す。
「そうだな。お前のご主人様も綺麗だもんな」
そして、マチャは再びカカオの頭を撫でた。




