#151
真ん中で分けたショートの金髪の人物が店内を歩いていた。
その人物の名はジェラート。
スイーツ&バー――ホワイト·リキッドの経営者である男装の麗人。
彼女はスパイシー·インクの襲撃を受けた自分の店の中を進んでいく。
店内は酷い有り様だった。
煌びやかった内装は半壊状態で、ジェラートも着ているウエストコート姿の従業員たちの死体がそこら中に転がっている。
飾られていた様々な種類のアルコールが入った酒瓶も、フルーツの形をした可愛らしいぬいぐるみも、死体と一緒にボロボロにされていた。
マシンガンでも使ったのか。
まるで蜂の巣のように弾痕だらけだ。
「スパイシー·インクが本格的に潰しに来たみたいだね」
ジェラートがそう言うと、彼女の後ろを歩いていた二人の男女が頷く。
この二人はグラノーラとシリアル。
運良くスパイシー·インク襲撃時に店にいなかった従業員だ。
「私は少し敵の戦力を削っておくから、グラノーラは生き残った従業員たちの安否を確認しておいてよ」
「わかりました」
グラノーラはそう言うと店を出て行った。
「シリアル」
それからジェラートは残った彼の妹――シリアルの名を呼んだ。
「はい、ジェラートさん」
「たぶん殆どの従業員たちがもう死んでいると思うけど、ここからさらに殺される。だから君は、トランス·シェイクが使える人間だけでも優先して助けてあげて」
「任せてください」
ジェラートからの指示に、何の疑問も持たずにシリアルは従い、彼女もまた兄と同じようにその場を去る。
店に残ったジェラートは、店にあったソファーに腰を下ろすと、店内の惨状を眺めた。
真っ赤な血が撒き散らされ、死体の内臓や脳漿がはじけ飛んでおり、すでに酷い死臭を放ち始めている。
おそらくは反撃する隙すら与えずに殺されたのだろう。
恐怖すら感じることなく死んでいった顔で、従業員たちは倒れている。
「みんな死んじゃったか……」
だが、そんな従業員の死体を見てもジェラートの表情は変わらなかった。
怒るでも悲しむでもなく、ただ道端で車に引かれた野良犬でも眺めているかのような――。
興味などまったくない顔だ。
「でも、こうなったってことはあの人が気が付いたってことだよね……。フフフ……。フッハハハ!」
独り言を呟いていたジェラートは、誰もいない血塗れの店内で突然大笑いを始めた。
この場にそぐわない喜びの笑顔。
無邪気な子供のような笑い声が店内に響き渡る。
「でも、まだだよ……。まだまだこれからだよ。愛しい人……」




