#150
――白髪の男が、窓ガラスを壊さんばかりで降り注ぐ雨を眺めていた。
ここは島にあるビルの一つ。
誰もが働きたがる警備会社スパイシー·インクの本社だ。
建物内から、豪雨を眺めている男の名はレカースイラー。
この人工島テイスト·アイランドを仕切っている警備会社――スパイシー·インクの社長だ。
レカースイラーは着ている道着のような和服の胸元を直しながら、無表情でその白い短髪を手で払う。
外を眺める彼の後ろには、スパイシー·インクの幹部である男二人――。
スーツ姿のボボティとウィングが立っている。
二人とも格闘家のように筋肉が盛り上がっており、着ているジャケットがはち切れんばかりの身体をしている。
「リコンカーンの奴も行方不明になったか」
レカースイラーがそう言うと、二人の幹部はコクッと頷いた。
その言葉からするに、すでに彼らの報告は終わったのだろう。
頭を下げた後に、ただ「はい」と返事をしただけだ。
これでジャーク、ベヒナ、チゲに続き、スパイシー·インクの幹部は四人もいなくなった。
ジャークは殺害され、残りの三人はその消息を絶ち、会社の運営もままならない状態だ。
だが、レカースイラーの顔に怒りはなかった。
非常に落ち着いた様子で外を眺め、幹部二人のほうへと振り返る。
「話はわかった……。お前らが私に何故今まで事情を隠していたのかもな」
これまでの襲撃事件の真相を知ったレカースイラーは、どうして幹部たちが自分に報告をしなかったを理解したようだ。
事情を知った彼は、二人の幹部へと言う。
「私に黙っていたことは勘弁してやる。事情が事情だからな」
レカースイラーは、幹部二人を見据えて言葉を続ける。
「明日にでもホワイト·リキッドを潰せ。それと、あの女を私の前に連れて来い」
ボボティとウィングは背筋を伸ばして引き受けると、そのまま部屋を出て行った。
彼らが部屋を出て行くと、レカースイラーは側にあった椅子に腰を下ろす。
背もたれに身体を預け、デスクにあったウイスキーに手を伸ばし、グラスにそれを注いだ。
そして、琥珀色になったグラスを眺め、一人呟く。
「まさか……」
悲しみと安堵の交じった表情で、レカースイラーはウイスキーを飲み干した。
氷も割るものもないストレート。
濃いアルコールが彼の喉を焼き、五臓六腑に染み渡る。
「あの女が見つけていたとは……」
独り言を続けながら、レカースイラーはまたウイスキーへと手を伸ばした。




