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#144

――次の日の朝。


マチャはバニラと共に、泊っていたホテルから出てカラオケボックスへ入っていた。


カラオケ機器を中心に、テーブルとソファなどが配置された薄暗い個室だ。


個室に入ったマチャはドリンクバーで飲み物を取って来ると言い、バニラに訊ねる。


「お前は何を飲む? ついでに持ってきてやる」


「えーと、じゃあハマイカ」


「ハマイカ? なんだそれ?」


「知らない? 冷たいハイビスカスのお茶だよ」


「そんなシャレたもんがドリンクバーにあるわけないだろう……。アイスティーでいいな」


マチャはそう答えると個室を出た。


そして、どうせエンチラーダが働くメキシコ料理で飲んだドリンクだろうと、ため息をつきながらも微笑(ほほえ)んでいる。


そのときの彼女の顔は、まるで覚えたての言葉を使いまくる息子を持つ母親のようだった。


それからセルフサービスのドリンクバーでバニラのアイスティーと自分のぶんのコーヒーを入れたマチャは個室へと戻り、昨夜の話の続きをすることに。


「辞めたいっていうのは、前から考えていたのか?」


「最近だよ。前はそんなこと考えてもみなかった」


自分で訊いておいてマチャは思う。


それはそうだろうと。


何故ならばマチャがバニラと初めて会ったときに、彼女はホワイト·リキッドを辞めさせようと暴力を振るっているからだ。


彼女としては(おど)して店を辞めさせ、こんな危険な仕事をさせないためという意図があった(マチャはバニラ以外に少年少女らにも同じことをしていた)。


それでも屈しなかったバニラが今さら仕事を辞めたいというのは、ここ最近の起きたこと――。


エンチラーダと出会い、その影響を受けたのだろうと、マチャは考える。


「その理由はなんだ?」


すでにわかっていながらも訊ねたマチャ。


だがバニラは、考えを言葉で上手く伝えられないようで、口ごもっていた。


何か言いたそうにしながらも途中で止め、はっきりと口にはできない様子だ。


「エンチラーダ……あの子の影響か。一緒に音楽でもやろうとでも言われたのか?」


自分の意思ではなく他人に言われてその気になったと思われるバニラに対し、マチャはけして小馬鹿にしたりせずに訊ねた。


バニラは何か言い返そうと両手を上げて動かしているが、結局は何も言葉が出ずにコクッとマチャに向かって(うなづ)く。


「音楽をやろうと言われたわけじゃないんだけど……。まあ、そんな感じのことを言われて……」


マチャが自分の言葉にできなかったことを理解してくれたと思ったのだろう。


そこからバニラは話を始めた。


マチャたちがリコンカーンに連れ去られたときに、エンチラーダが一緒に島を出ないかと誘われたこと――。


そして、別の国で一緒に暮らしていこうと言われたことを、短い言葉で口にした。


「でも、お前は私たちを助けに来てくれた。そのときは誘いを断ったんだろう? どうして今になって?」


「そ、それは……」

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