#143
それから全員でいただきますをして食事が始まり、料理を食べ始める。
「ほらカカオ。メシだぞ」
「だからアンタはカカオに野菜を食わすなよ」
相変わらずカカオに強引に野菜を食べさせようとするストロベリーのことを、ダークレートが止めている。
場所が違くとも変わらない、いつもの食事風景だ。
そんな中で、バニラはどうしてだが難しい顔をしていた。
めずらしく何か考え込んでいるのかと思ったマチャは、そんなバニラに声をかける。
「どうしたバニラ? 食欲がないのか?」
「……そんなことない。なんか……なんか、な……」
歯切れの悪い返事。
マチャはバニラが見舞いに行った相手――エンチラーダの容態が良くなかったのかを訊ねたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「じゃあ、何か別で気になることでもあるのか」
「……なあ、マチャ。もしオレが仕事を辞めたいって言ったらどうする?」
突然のバニラの言葉に、揉めていたダークレートとストロベリーの動きがピタッと止まる。
小熊のカカオも、強引にストロベリーに入れられた野菜を飲み込んでしまっていた。
言葉を失った一同。
だが、マチャだけはいつもと変わらない態度で問い返す。
「辞めたくなったのか?」
「いや、わかんねぇ……。わかんねぇんだよ……オレ……。どうしたらいいか……」
俯きながら言うバニラ。
マチャはそんな彼のことを見つめると、その口を開く。
「そうか。とりあえず食欲があるなら今は食え。話は後で聞いてやる」
「あぁ、わかった……。とりあえず食う……」
場所が違っても同じだった食事の雰囲気が変わり、一気に重たい空気が漂った。
ダークレートも料理に伸ばしていた手が遅くなり、いつもなら何か言いそうなストロベリーでも余計なこと口にしなくなった。
カカオのほうは寂しそうに俯くバニラのことを見て鳴いている。
「ほらお前たちも早く食え。料理が冷めてしまうぞ」
そんな彼女たちに食事をするように言ったマチャは、いつもと変わらないように振舞っていた。
そして、彼女は考える。
バニラに何があったのかを。
(たぶん、こいつがめずらしく悩んでいるのはエンチラーって子の影響か……)
バニラはエンチラーダの出会ってから年相応の少年のようになっていったことに、マチャは気が付いていた。
これまでスラムで友人もなく暮らし、学校も行かずに一人で生きてきた彼にとっては初めての同性の友人だったのだろう。
エンチラーダと過ごした日々が、そんなバニラにまともな生活をしたいと思わせるには十分だと、マチャは思う。
(店を辞めるのは良いことだ。ただ問題はある……)
マチャとしては、バニラがホワイト·リキッドを辞めることには賛成だった。
スパイシー·インクに追われている今の自分には難しいが。
しばらくすれば別の仕事も探してやれるだろう。
だが、それを決めるのは自分ではない。
雇い主であるジェラートなのだ。
いっそのことバニラが島から逃げ出せば話が早いが――。
(……考えを急ぎ過ぎたな。すべては話を聞いてから決めよう)
マチャはそう思うと、バニラから話を聞いてから考えることにした。




