#140
――店の外へ出たダークレートの後を追いかけるマチャとストロベリー。
二人はなぜ彼女がジェラートにああいう態度を取るのかがまったくわからなかった。
思い返せば以前からそうだった。
ダークレートはジェラートが現れると極端に口数が減り、ついさっきまで笑って話していた顔が強張るのだ。
「なあ、ストロベリー。なんであいつはジェラートさんが嫌いなんだ?」
「うん? 知らん。妬んでんじゃないの?」
訊ねられたストロベリーは、呆けた顔で言葉を続けた。
ジェラートは身長も高くスタイルもよく、女性でも憧れてしまうような美貌を持っている。
さらに太陽のように輝く綺麗な金色の髪で、それを上回る陽射しのような笑顔で普段からいる。
それに対してダークレートは体型も貧弱で背も低い、その伸ばしっぱなしの髪はまるで闇から現れた悪魔の使者のようだ。
だから見た目も性格も完璧なジェラートに、きっとジェラシーを感じているのだと、ストロベリーは例えを使った説明でマチャに言う。
「ま、気持ちはわからんでもないけどね。ジェラートさん見てると、女としてなんか負けたッ! って感じになるし」
「ジェラートさんがあいつの嫉妬する対象になるとは思えないが……」
「もうッ、マチャはそういう女の気持ちみたいなのわかんないもんね。女なのにさ」
「だが、その話だとお前もダークレートと同じはずだろう? その差はなんなんだ?」
「そんなの当たり前だよ。だってあたしは、強くてカッコいい人が好きだから」
「じゃあ、スパイシー·インクのボスが強くてカッコよかったらお前は裏切るのか……?」
「うん。たぶんマチャやダークレートも殺すよ。もちろんバニラや店の人たちもね」
「最悪だな、お前……」
「あッ! でもカカオは殺さないかな~。あいつ、野菜食ってくれるし」
マチャはストロベリーに訊ねなければよかったと、表情をしかめながら歩き、ようやく前にいたダークレートに追いつく。
声をかけても立ち止まってもらえないと思った彼女は、ダークレートの横に並び、ストロベリーはその反対側へと走った。
左右から挟む形となって、三人はそのまま街を歩く。
「どこへ行くつもりなんだ?」
「うん? バニラのとこ。カカオを迎えにいく」
「そうか。じゃあ、その後にあいつも誘って夕食にするか。時間はちょっと早いけどな」
マチャが顔を合わせずにそう言うと、ダークレートはコクッと頷いた。
そして、ストロベリーもまた二人の顔を見ることなく、突然両手を上げて声を張る。
「よっしゃッ! メシだメシだッ! 今日もビュッフしよう」
「ダメだ。お前は食べ放題へ行くと肉しか食わないだろう? それと、ここら辺にあるビュッフ形式の店は全部ペット禁止だ」
「じゃあバイキング」
「それじゃ同じだ。今夜はバランスを考えてベジタブルレストランへ行く」
「えぇッ!? あたしを殺す気ッ!?」
「逆だ。野菜を食わないと死ぬぞ」
マチャの決定に反対のストロベリーは喚き続けている。
ダークレートが横にいるのことなどお構いなしで、彼女の身体をマチャへと押し付けながら、せめて焼き肉にしてくれと叫んでいる。
当然マチャは承諾などしない。
バニラとカカオを連れて、ベジタブルレストランへ行くといって聞かなかった。
そんな左右からステレオで話される二人の会話を聞いていたダークレート。
鬱陶しいと思いつつも、彼女の顔はいつの間にか緩んでしまっていた。




