#139
バニラ、ストロベリー、ダークレートたちは、最近ではホワイト·リキッドの従業員たちにも敬語を使えるようになった。
その中でも誰よりも早く社会性を身に付けていたはずのダークレートが、こともあろうか雇い主であるジェラートにタメ口をきき、さらに高圧的な態度を取っていた。
一体どうしたのだとマチャはダークレートの訊ねた内容よりも、彼女の本人に気が向いて間に割って入る。
「おい、ダークレート。ジェラートさんにそんな言い方するな」
「マチャは黙っていて」
ダークレートが両腕を組んだままマチャを止めると、ストロベリーも立ち上がって口を開く。
「ならあたしは口出していいんだよね」
「アンタもマチャと一緒。この女の前じゃ借りてきた猫みたいになる。だから黙って」
いつもストロベリーやバニラが常識はずれなことをすると、厳しいことを言うダークレートだが。
それとは違う、声を抑えた威圧感のある言い方に、ストロベリーはたじろいてしまう。
二人を黙らせたダークレートは、ジェラートを睨みつけながら言葉を続ける。
「答えて。アンタはリコンカーンから聞いてるんでしょ? それとも、あいつがバニラを狙っていることを最初から知ってたの?」
長い黒髪から覗いてくる鋭い視線をぶつけられても、ジェラートの笑顔は崩れない。
身長が二メートルはある彼女は、まるで菩薩のような笑みのままで、敵意むき出しのダークレートのことを見下ろしている。
「どうなの? なにか答えられない事情でもあるわけ?」
「やめろダークレートッ!」
突然威圧的になったダークレートに面を食らっていたマチャだったが。
これ以上は不味いと、彼女のことを止めに入った。
ダークレートの前に立って、彼女をジェラートから引き離す。
「一体どうしたんだよ、いきなり喧嘩腰で? お前らしくもない」
「別に。アタシはただ訊きたかったことを訊いただけだけど」
「リコンカーンのことなら後でジェラートさんからも私たちに話がある。今日は部屋のことで来たんだから、今度でいいだろう、その話は」
なるべく刺激しないようにダークレートを宥めるマチャ。
ストロベリーは何もできずにただ怯み、ジェラートはというと変わらずに微笑んだままだった。
「わかった。じゃあ、アタシは先にホテルに帰ってるから」
「おいダークレートッ! ジェラートさんに謝れッ!」
マチャは急に部屋を出て行ったダークレートを止めようとした。
だが、彼女は不機嫌そうな顔で部屋を出て行き、扉をバタンと力任せに閉めて出て行ってしまった。
「どうしたんだ、あいつ……?」
「女の子なんだから機嫌の悪い日もあるでしょう」
「すみません、ジェラートさん。私からもよく言っておきます」
「いいよ。私は気にしてないから」
「本当に申し訳ない。では、私たちも失礼します。おいストロベリー。行くぞ」
マチャは余程心配なのか。
ダークレートに代わってジェラートに謝罪すると、ストロベリーと一緒に彼女の後を追いかけていった。
一人部屋に残されたジェラートは、部屋にあったソファーに腰を下ろして呟く。
「あぁ~、あの子には嫌われちゃってるんだ。……フフフ」




