#136
――マチャはダークレートとストロベリーを連れて、ホワイト·リキッド一号店――本店へと向かっていた。
いや、すでに殺されたロッキーロードが任されていた三号店、そして彼女が任されていた二号店は閉店しているため、ホワイト·リキッドはもう一店舗のみなので、そういう言い方をする必要はないかもしれない。
「あ~マジ最悪」
マチャの後ろで、ダークレートと並んで歩くストロベリーがブツブツと文句を言っている。
それもしょうがないことだった。
彼女もダークレートも、そしてバニラも、ロッキーロードの家からマチャの自宅へと引っ越ししたばかりで、またもスパイシー·インクの襲撃を受けたのだ。
おそらくはもうマチャ、ダークレート、ストロベリー、バニラの顔はスパイシー·インクに知られており、街を歩く三人も簡単な変装をして移動している。
「気持ちはわかるけど、そんな文句ばっかり言わないの」
「だってさ~。お気に入りの服も取りにいけないじゃん。せっかくマチャに買ってもらったのに、毎度こんなんじゃやってらんないっしょ」
そんなストロベリーを宥めるダークレートだったが。
彼女の言い分もわかると、思いながらも所詮はそういう生活しかできないのが、今の自分たちの暮らしだと諦めていた。
スラム街でロッキーロードに拾われ、ホワイト·リキッド三号店の店員になったダークレートやストロベリーのような子供らは、この人工島テイスト·アイランドを仕切っている警備会社――スパイシー·インクを壊滅するまで平穏な生活など手に入らないことを彼女は理解しているのだ。
「そのうちまた買ってやるから」
「マジッ!? 絶対だぞマチャッ!」
マチャがそう言うと、ストロベリーが歓喜の声をあげた。
先ほどまでの不機嫌だった顔が一気にほころび、前を歩くマチャの背中に抱きついている。
そんな二人の様子を見て、ダークレートは思う。
ストロベリーは今でも自分勝手で出された食事を残すが(嫌いな野菜を小熊のカカオに無理やり食べさせたりなど)、以前よりは付き合いやすくなった。
それは、三号店でサニーナップやモカを連れ回していた頃の彼女からは、とても想像できないほどだ。
そして、自分やバニラもそうだ。
バニラはあの汚い食べ方が直り、風呂にも毎日入るようになった。
自分も以前よりも大人を――マチャやホワイト·リキッドの従業員たちのことを信用するようになった。
そんな心境の変化は、すべてマチャや死んでしまったラメルのおかげだと言える。
友だちの小熊だけいればいいと考えていた彼女にとって、この心境の変化は大きなことだ。
「ねえ、マチャ。これからどうなるんだろう、アタシたち……」
「とりあえずジェラートさんに指示を仰ぐ。しばらくは身を隠すことになるかもな」
マチャがそう言うと、ストロベリーが彼女に抱きつきながら口を開く。
「じゃあ、ずっと仕事しなくていいってことじゃん! なら遊園地に行こう!」
「アンタってヤツは……現状を理解してないの……?」
「してるよ。でも、落ち込んでばっかいられないじゃん。あたしらは生きていて、これからも生きてくんだよ。だったらウマいもん食って楽しいことしなきゃ」
「うぅ……。何か言ってやりたいけど、間違ってない気がして返す言葉がない……」
「ハッハハ! なんか知らんけどあたしの勝ちぃぃぃッ!」
ストロベリーの言葉に共感したのか。
ダークレートは反論ができず、ストロベリーが意味が分かっていなくとも勝ち誇っていた。




