#135
その後、バニラはすぐに退院が決まったが。
エンチラーダのほうはまだ怪我の具合が完全ではなく、病院に残った。
だが命に別条はないようで面会も許され、バニラは彼の病室に通い詰めるようになる。
今日は小熊のカカオを連れてきていた。
「よう、どうだ? 身体のほうは?」
「うん、もう大分良くなっているよ。すぐにでもここから出たいくらいね」
「おいおい、先生がまだ無理だって言ってるんだから、まだ退院できないだろ?」
「寝覚めてすぐに病室を飛び出したバニラに言われたくない」
「あ、あれはだってッ! お前が心配だったから……」
「フフフ、ありがと」
顔を赤くするバニラを見て笑うエンチラーダ。
その顔色を見るに、順調に回復に向かっているようだ。
カカオも嬉しそうに鳴いている。
見舞いの果物をテーブルへと置き、病室にあった椅子にバニラが座ると、エンチラーダが彼に訊ねる。
「ねえ……。訊きづらいんだけど、リコンカーン兄さんがどうなったのか知ってる?」
「えッ? あぁ……オレは詳しくはわからないけど……。たぶん、ホワイト·リキッド本店にいると思う……」
「そっか……」
兄のことが心配なのか。
エンチラーダの表情は浮かない。
バニラは何故自分を拳銃で撃ち、まるで虫けらのように扱った兄のことを心配するのか理解に苦しんだが。
やはりエンチラーダは優しいのだということで、リコンカーンに対する怒りを収めていた。
(それともエンチラーダが特別じゃなくて、兄弟や家族って……やっぱ、そういうもんなのかなぁ……)
自分にはそういう気持ちがよくわからない。
バニラは自分のことを好きな相手が好きだ。
拳銃で撃たれたり、ぞんざいに扱われたら、今のエンチラーダのような気持ちにはなれそうにない。
(あれ? ってことは……。もしエンチラーダが冷たくなったら、オレは……?)
そして、考えていると疑問が生まれる。
エンチラーダに冷たくされたら、自分は彼を嫌いになるのか。
その答えはすぐに出た。
嫌いにはならない。
きっと、どうにかしてエンチラーダの気持ちを理解しようと努力するだろうと。
だが、それでも上手くいかなかったら?
バニラがそんなことを考えながら難しい顔をしていると、エンチラーダが言う。
「どうしたの? そんな怖い顔をして?」
「いや、なんでもないんだけど。……やっぱオレに、考え事は向いてないみたいだ。頭が痛くなるし、結局答え出ないし……」
エンチラーダはそう返事をしたバニラへ微笑む。
「みんな同じだよ。僕だって、バニラが助けようとした人たちだって、みんなみんな、考えたって答えが出ないことはいっぱいある」
「そ、そうかな……」
「そうだよ。だからバニラ一人がおかしいわけじゃない」
何か励ましの言葉でもかけようと思っていたバニラだったが。
逆にエンチラーダから元気をもらっていた。
「ま、いいや。それよりもリンゴでも食べよう」
「もう、バニラは切り替えが早いんだから」
「いいじゃんいいじゃん。ちょっと面白いリンゴの切り方見せてやるよ」
そしてバニラはリンゴをナイフで切っていき、赤い羽根をした白鳥を作った。




