#134
――バニラが目を覚ましたのは病院のベットの上だった。
彼の傍には小熊のカカオが眠っており、目の前にはマチャとダークレート、ストロベリーの三人が立っている。
「やっと起きたのかよ」
ストロベリーがムスッとした不機嫌そうな顔で口を開いた。
寝起きで意識が定まらないバニラだったが、すぐに両目を見開いて叫ぶ。
「エンチラーダはッ!? あいつはどうなったッ!?」
バニラはベットからガバッと身体を起こした。
エンチラーダのことを心配なあまり痛みで顔を歪めながらもベットから降りて飛び出して行こうとする。
「落ち着け。彼は無事だ」
そんなバニラを落ち着かせようと、マチャが手を伸ばして彼を再びベットへ寝かせた。
エンチラーダは別の病室におり、バニラとは違ってすでに意識が戻っていると彼女が言うと、続けて倉庫内での後のことを説明し始めた。
あの場にいたスパイシー·インクの社員たちは全員始末し、リコンカーンはグラノーラたちによってホワイト·リキッドの本店へと連れて行かれた。
今はジェラートのところで尋問されている。
エンチラーダの傷はかなり深かったが。
医者の話では特に後遺症などはなく、数日後には退院できるらしい。
「そうか……。エンチラーダは助かったんだ……。よかった……本当によかったぁ……」
バニラの耳には、リコンカーンのことやその場にいた者たちのことは入っていなかった。
ただ撃たれたエンチラーダが無事だったことに安堵し、俯いて泣き始める。
そんな彼を見てマチャが微笑み、ダークレートとストロベリーは呆れていると、彼に寄り添って眠っていたカカオが目を覚ました。
カカオは泣いているバニラの顔を、ペロペロと舐めて慰めている。
そんなカカオを力強く抱きしめ、バニラはそのフサフサの毛で涙を拭った。
「ったく、アンタのせいでどれだけ大変だったと思ってんだよ。聞いたらアンタの友だちって、スパイシー·インクの幹部の弟だったんだろ?」
「ちょっとストロベリー。今そんな話しなくていいでしょ。みんな助かったんだから」
苦々しい顔でバニラを責めるストロベリー。
ダークレートがそんな彼女を小突いて黙らせようとしたが、彼女は止まらない。
「なにいってんだよッ!? あたしが頑張らなかったらマチャもアンタもみんな死んでたんだよッ!? それもこれも、こいつが騙されてせいで――」
「ストロベリー……その話は後だ」
マチャがストロベリーの言葉を遮って静かに声をかけると、彼女はさらにムスッと眉間に皺を寄せつつも黙る。
それからマチャは、バニラに今はゆっくり休むように言うと、ダークレートとストロベリーを連れて病室を出て行く。
「カカオは置いていくから、お願いね、バニラ」
その去り際に、ダークレートがそう言うとバニラは俯いたまま頷いて返した。
微笑んでいるマチャと、ホッとしているダークレートと違い、ストロベリーは最後まで文句を言ってやりたい顔をしていたが。
何も言わずに彼女たちの後を追っていく。
「エンチラーダ……よかったなぁ……生きていてよかった……」
残されたバニラは、同じ言葉をずっと繰り返し、泣きながらも歓喜に身を震わせていた。




