#133
リコンカーンはその一撃で気を失い、バニラはその撃たれた身体を引きずってエンチラーダへと近づく。
「エンチラーダッ! エンチラーダッ!」
全身から血を流しながら自分のことなど気にせずにエンチラーダへ声をかけるが。
彼から反応はない。
兄であるリコンカーンに撃ち抜かれた腹部から血が流れ、エンチラーダはまるで死人のような生気のない顔で動かないままだ。
「誰かッ! 誰かエンチラーダを助けてくれッ!」
まだ倉庫内ではストロベリーが連れてきたホワイト·リキッド面々とリコンカーンの部下が戦っている状態であった。
もう自分ではエンチラーダを運ぶほどの力が残ってないバニラは、そんな現状を理解できないのか。
周囲に助けを求めていると、そこへマチャとダークレートが駆け寄って来る。
「おい! 大丈夫かバニラッ!?」
「オレなんかよりエンチラーダをッ! こいつを助けてやってくれッ!」
マチャが声をかけると、バニラはエンチラーダのことしか口にしなかった。
彼は腹を撃たれてる。
早く病院に連れて行かないと死んでしまうと、今にも泣き出そう顔でマチャへと訴える。
「アンタも傷だらけじゃないのッ!?」
「オレなんかいいんだッ! 早くッ! 早くエンチラーダを医者のところにッ!」
バニラを気遣うダークレートだったが。
それでも彼はエンチラーダのことしか口にしなかった。
マチャはエンチラーダの身体を担ぎ、ダークレートに指示を出してバニラに肩を貸すように言う。
そして、倉庫内から出てここから一番近い病院へと向かおうとしていた。
「グラノーラさん! ここは任せていいですかッ!?」
ホワイト·リキッドの面々を指揮していたグラノーラに向かって、マチャは遠くから叫ぶと、彼は握っていた日本刀を振って応える。
その横には彼の妹であるシリアルもおり、彼女のほうは顔を向けて叫び返す。
「大丈夫だよマチャッ! ここは私たちに任せてバニラたちを運んでやってッ! 外に車があるからッ!」
「すまないシリアルッ! 悪いけど、先に行かせてもらうッ!」
マチャはシリアルにそう言うと、エンチラーダの背負って外へと出た。
ダークレートがバニラに肩を貸したまま、彼女の後を追う。
それからシリアルの言っていた車へと乗り込み、マチャはエンジンをかけて発進。
スラムまでは距離があるので、港に近い病院へ車を走らせる。
その車内で後部座席に乗せたエンチラーダとバニラに、ダークレートが応急処置を施していた。
「エンチラーダ……死ぬなよ、死なないでくれ!」
「いいから静かにしてろ! アンタも撃たれてんだからッ!」
落ち着かずに何度もエンチラーダに声をかけ続けているバニラに向かって、ダークレートが冷静になるように言った。
だが彼は声が続く限り言葉をかけ、やがて意識を失った。




