#132
リコンカーンの拳銃を持つ腕を両手で掴み、エンチラーダが叫ぶ。
「バニラはダメッ!? 彼に手を出さないでよ兄さんッ!」
「このクソガキがッ! どこまで俺の邪魔をするつもりなんだぁぁぁッ!」
ホワイト·リキッドとスパイシー·インクの面々による乱戦の中――倉庫内に銃声が響き渡った。
リコンカーンが飛び掛かってきたエンチラーダの身体を撃ったのだ。
「エンチラーダッ!?」
「バ、バニラ……。逃げ……てぇ……」
腹から血を流し、バニラに訴えたエンチラーダはその場に倒れた。
リコンカーンはそんな弟の身体を蹴り飛ばし、バニラへと拳銃を向ける。
「おい行くぞ。早く歩け」
「エンチラーダ……」
「いつまでそんなクソガキ見てんだよ。こんな島で音楽やってるバカなんて放っておいてさっさと歩け」
バニラは弟を撃ったリコンカーンのことを睨みつけた。
そして、怒りが満ち溢れた表情でゆっくりと彼のほうへと歩き出す。
「よくも……よくもエンチラーダを撃ったな」
「よく垂らし込んだもんだぜ。そんなにこいつが好きかテメェ?」
「エンチラーダはなぁ……。オレにいろいろ教えてくれたんだ……。初めてできた友だちなんだ……。それを……お前はぁぁぁッ!!」
リコンカーンは向かってきたバニラに発砲。
頭や心臓を避け、彼のふとももや肩を撃ち抜く。
だが、バニラは倒れなかった。
トランス·シェイクを飲んだ影響で現れた、刺青のような模様を歪めませて言い放つ。
「こんなんで……止まると思ったのかよ……。撃つならちゃんと狙えッ!」
「できたらとっくにやってんだよ白髪ッ! いいからテメェは俺について来ればいいんだッ!」
叫び返すリコンカーン。
だがバニラは怯むことなく、撃たれた足を引きずって彼に近づいて来る。
「しょうがねぇ。とりあえず生きていれば――ぐッ!?」
リコンカーンが再び発砲しようとしたとき。
彼の足にエンチラーダの手が伸びていた。
まるで地獄に落ちた亡者がもがくように、エンチラーダは兄に足を引っ張る。
「バニラ……逃げ……て……」
「邪魔すんなエンチラーダ! テメェは死んでろッ!」
リコンカーンが瀕死のエンチラーダに手を出そうとしたとき。
一瞬の隙ができた。
バニラはそれを見逃さず、一気に距離を詰める。
「なッ!? その足でッ!?」
撃たれた身体を奮い立たせ、エンチラーダを守るためにバニラは拳を振り上げる。
もう二度と足が動かなくなってもいい。
だから動けと言わんばかりに、血液を失っていく両足を踏ん張って渾身の一撃を放った。
「エンチラーダに手を出すなぁぁぁッ!」
バニラの拳がリコンカーンの顔面を振り抜き、彼の被っていた大きなつばの帽子――ソンブレロが飛び、そのまま地面に倒れた。




