#12
そして朝になり、目を覚ましたバニラは寝袋から身体を出した。
昨夜も十分に汚かったが。
部屋の中はさらに散らかっていた。
缶ビールがいくつも転がり、おそらくはロッキーロードが食べたと思われるポテトチップスや2リットルのペットボトルコーラが空の状態で置いてある。
おまけにずっと片付けられていない食器がテーブルに錯乱しており、それらからは腐臭がしていて、その周りをコバエが飛んでいる。
ゴミ屋敷というほどではないが、とても人が住むような環境ではない。
まともな人間ならすぐにでも片付けようとするだろう。
だが、バニラは気にしない。
寝起きで水道水を飲み、着替えることもなくそのまま職場へと出かける。
バニラの職場は、ロッキーロードを雇っている男装の麗人――ジェラートの経営するスイーツ&バー――ホワイト·リキッドだ。
この人工島ティスト·アイランドに何店かある朝からアルコールが飲める飲食店で、ホワイト·リキッドの三号店に当たる。
一応はロッキーロードが三号店の店長なのだが。
彼が店に出ることはない。
すべてロッキーロードが面倒をみている少年少女が店を回している。
「またここで寝てたのか?」
バニラが店の鍵を開けて店内に入ると、ソファーで寝ているダークレートの姿があった。
彼女はロッキーロードのマンションが嫌いで、大体は店で寝泊まりしている。
ウトウトと寝ぼけ眼でバニラのことを見上げるダークレート。
その胸には、まるでぬいぐるみのような小熊が抱かれている。
ダークレートに抱かれていた小熊が彼女の腕から抜け出すと、バニラに向かって鳴いた。
挨拶でもしているのだろうか。
ガウガウと可愛らしく鳴いている。
この小熊の名前はカカオ。
バニラがダークレートと出会う前から彼女が連れている小さなヒグマだ。
当然マンションでは飼えないので(ロッキーロードは動物が嫌い)、ダークレートはこっそりと店に入れている。
「もうすぐ店を開けるから」
「あぁ……。もうそんな時間か……」
ダークレートはそう返事をすると、バニラに向かって鳴いているカカオを抱いて店を出て行く。
もちろん彼女も従業員だが、店を手伝うことはない。
それは他の少年少女――。
ストロベリー、サニーナップ、モカも同じで、基本的にはバニラだけでホワイト·リキッド三号店は営業している。
それでもバニラは文句一つ言わない。
店に客がまったく来ないのもあるのかもしれないが。
彼は仕事があるだけ恵まれていると思っている。
朝起きてやることがあり、食事も取れて屋根のある寝床もある。
現在のバニラはそれだけでよかった。
「なんかメシ作る?」
戻ってきたダークレートが訊ねてきた。
彼女は店の扉から顔だけ出し、彼女の真似をしてカカオもヒョコッと身体を傾けていた。
「俺はもう食べた。自分で適当に作れよ」
「あっそ。じゃあいいや」
ダークレートはそう言うと、今度こそカカオと店を出て行った。




