タイトル未定2025/08/09 05:13
「ちょっとバニラッ!? 一体どこへ行くんだよッ!?」
突然手を引かれて連れて行かれるエンチラーダは訊ねた。
だが、バニラは答えない。
ただ顔を強張らせながら、エンチラーダの手を強引に引っ張って駆けていく。
バニラは考えた結果。
マチャならなんとかしてくれると思った。
エンチラーダは敵側の人間だったが。
彼は兄を捨ててまで自分のことを助けようとしてくれたのだ。
このままではエンチラーダもスパイシー·インクに狙われる。
頭の悪い自分では彼を守れないが、マチャならきっとなんとかしてくれると、バニラは彼女のいる自宅へと向かっていた。
(そうだよ。あいつならエンチラーダを見捨てないッ! オレやストロベリー、ダークレートとも上手くやっているあいつなら、エンチラーダのことだってなんとかしてくれるはずだッ!)
そう内心で叫びながら、バニラがエンチラーダを連れて自宅へと辿り着くとそこには――。
「なんだよこれ……? どうなってんだよッ!?」
マチャの家は荒らされていた。
争った跡があり、部屋中の家具が破損している。
その中でバニラは傷ついた一匹の小熊を見つける。
ダークレートの飼っているカカオだ。
「カカオッ!? おい大丈夫かッ!?」
カカオは苦しそうに鳴きながらバニラに顔を向ける。
そんな小熊を抱いて何度も声を掛けていると、バニラに連れて来られたエンチラーダが口を開く。
「兄さんだ……。兄さんがここへ来たんだよ……」
「なんだとッ!?」
バニラはカカオを抱いたままエンチラーダに詰め寄った。
震えるエンチラーダに訴え、兄の場所を言うように声を張り上げる。
「頼むよエンチラーダッ! あいつらを助けたいんだッ!」
「君一人で何ができるんだよッ!? 兄さんは何十人も部下を連れて銃も持ってるんだよッ!? そんなとこへ行ったら……バニラが殺されちゃう……」
泣きながら拒否するエンチラーダに、バニラは抱いていたカカオを渡した。
そして、カカオを持った彼のことを包み込むように抱きしめる。
「オレ、バカだからどうしていいかわかんねぇけど。あいつらは……あいつらのことはなんとかしたんだ……。頼むよエンチラーダ……」
「バニラ……」
バニラに抱きしめられ、彼の震える身体と体温を感じたエンチラーダ。
言葉の足らないバニラの悲願する抱擁。
彼にとって、それほどマチャたちは大事な人間なのかと考えると、エンチラーダは涙が止まらない。
「兄さんは……たぶん港にある倉庫にいるよ……」
そんなバニラの思いを汲んだのか。
エンチラーダは兄であるリコンカーンのいる場所を彼に伝えた。
「サンキュー、エンチラーダ……。お前はどっかに隠れていてくれ。たぶんスラムにあるクリムって闇医者のとこなら安全だ。カカオのこと、頼んだぞ!」
そして、バニラは部屋を出て行った。
エンチラーダは彼の背中を眺めていることしかできず、泣きながら立ち尽くしていた。




