#124
それからエンチラーダは、なぜ自分がバニラが話してもいないことを知っているのかを話し始めた。
彼にはリコンカーンという兄がおり、スパイシー·インクの幹部だということ――。
その兄からバニラたち――スパイシー·インクを壊滅させようとしている者たちに接近して、いろいろと調べるように言われたことなどを今にも泣きそうな顔で伝える。
「エンチラーダが……スパイシー·インクの人間だったのか……?」
「違うッ! 違うんだバニラッ! 僕は断ったんだッ!」
驚愕するバニラにエンチラーダは弁解する。
兄であるリコンカーンがいうに――。
バニラ、マチャ、ストロベリー、ダークレートのことをすでにスパイシー·インクの人間に知られている。
兄たちは、バニラたちを裏で操っている者がいると考えており、確実にその首謀者を知るために彼らを放置している。
そのためにまずはバニラたちが住んでいる場所や、彼らの生活環境を調べるために、歳の近い自分を使おうとしていたのだと言う。
しかし、エンチラーダはバニラたちのことを聞かされる前にその話を断った。
それは彼が、もうそういう血生臭いことに巻き込まれたくなかったからだった。
だが運命は悪い方向へと動き、エンチラーダは偶然バニラと出会い、交友を深めてしまった。
もう何度もバニラたちが住むマチャの家へと行き、リコンカーンに居場所が知られてしまっている。
「兄さんはもう……強硬手段に出るって言ってた……。だから……僕とこの島を出よう! 大丈夫だよ! 二人ならなんとかなる! 僕が……僕がバニラを……絶対に……絶対に守るからッ!」
「島から出るって……そんなことできるのか……?」
「できるよ。兄さんはスパイシー·インクで外との貿易を任されているから、僕にも多少の知識があるんだ。だから……僕と島の外へ」
バニラはようやく事態を理解した。
それでも彼の思考は定まらない。
むしろさらに混乱してしまう。
「ちょっと待ってくれよ。いきなり逃げようって言われたって……。それに、こんな話したらお前もヤバいんじゃないのか……?」
「だって……僕……バニラといて楽しかったから……。これまで生きていて……一番楽しかったんだ……。一緒にご飯を食べたり、音楽やったりして……本当に幸せだったから」
バニラは涙を流して訴えてくるエンチラーダを落ち着かせようと、彼が掴んでいた手を離して距離を取った。
バニラは考える。
今までにないくらい考える。
大嫌いな熟考をしながらどうすればいいか考えを巡らす。
表情を歪めるバニラを見て、エンチラーダが言う。
「なにをそんなに悩んでいるの? バニラは僕のことが嫌い?」
「好きだッ! オレもお前と会ってからが人生で一番楽しかったッ! だけど……」
バニラは大声を出すと、まとめた考えを口にした。
ホワイト·リキッドでの仕事も、最初に始めたときよりも認められてきた。
これまでろくに会話もしていなかった同僚たちとも上手くやれるようになってきた。
正直嫌いだった先輩のことも信用できるようになった。
だからすべてを捨てるのは難しいと、表情を強張らせながらもエンチラーダへと伝える。
「島は出れない……。でもさ、なんとかする。だから、お前もオレたちのとこに来いよ」
バニラはそう言うと、エンチラーダの手を引いて走り出した。




