表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/218

#123

――バニラはエンチラーダと共に街の祭りに来ていた。


とはいっても商店街で開かれたささやかなものだが。


露店に出されたたこ焼きやお好み焼きなど食べながら、(にぎ)わっている雰囲気を楽しんでいる。


「こんなイベントあったんだな。オレ、今まで知らなかった」


「ホントにバニラは何も知らないんだから。毎年やってるよ、このお祭り」


からかうように言ってくるエンチラーダに、バニラは「うっせ」と返事をしながらも嬉しそうだ。


そして、実際に彼は嬉しかった。


エンチラーダの長い髪と羽織っているポンチョが揺れる度に、バニラの胸も(おど)っている状態だ。


食べ歩きと祭り雰囲気を楽しんだ二人は、商店街から少し離れた公園へと来ていた。


少し高い位置にあるその公園からは、果てしなく続く青い海が見える。


「綺麗だね」


「あぁ、海をちゃんと見るのって……初めてかもしんない」


時間は午後を過ぎて夕暮れ時になり、二人にオレンジ色の光がそそぐ。


まるで二人がいるこの場所だけが別の世界かのように、周囲の色が変わっていく。


「ねえ、バニラ」


「ん?」


「いろいろ考えたんだけどさ。君の状況ってやっぱりおかしいよ」


バニラにはエンチラーダの言っていることがわからなかった。


それは彼がエンチラーダに、自分のことをろくに話していなかったからだった。


表向きは飲食店で働いていると伝えていたが。


実はホワイト·リキッドで働き、夜にはこの人工島テイスト·アイランドを仕切っている組織壊滅のために動いていることを、バニラは言えずにいた。


もちろん誰にも店のこと――ジェラートが首謀者だということを知られないためではあったが。


何よりもバニラはここ数日エンチラーダとの楽しかった日々に、血生臭い現実を切り離していたかった。


彼を自分の状況に巻き込みたくなかったのだ。


だがエンチラーダは、まるでそのことを知っているかの物言いだった。


「僕とそんなに変わらない歳なのに、変な薬を飲まされて……殺しをさせるなんて……。絶対におかしい……」


「エンチラーダ……? お前、どうしてそのことを……?」


「バニラッ!」


エンチラーダはバニラの両肩をその細い腕で掴んだ。


海があるほうからバニラの身体を自分のほうへと向け、彼の両目を見つめる。


そのときのエンチラーダの瞳は(うる)んでいた。


バニラはわからない。


何故エンチラーダが話してもいないことを知っているのか。


何故彼が涙ぐんでいるのかも。


真摯な眼差しで見つめたまま、エンチラーダはバニラに向かってゆっくりと口を開く。


「すべて捨てて……僕と逃げない?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ