#122
――マチャは久しぶりに自宅にいた。
部屋には映画を観ているストロベリーとダークレートがいて、カカオがクッションの上で眠っている。
「ねえマチャ。バニラはどこ行ったの?」
観ていた映画に飽きたのか、ストロベリーがあくびをしながらマチャに訊ねた。
ダークレートは内心でお前が観たいといった映画だろうと思いながら、彼女へ冷たい視線を送っている。
「あぁ、あいつなら朝に出たぞ。なんか祭りに行くとかで」
「なにぃぃぃッ!?」
マチャの返事を聞いてストロベリーが声を張り上げた。
激しく狼狽えながら大声を出したせいで、寝ていたカカオがビクッと目を覚ますほどだ。
「まさか女でもできたのか? あの陰キャの朴念仁に……」
「酷い言いようだな……」
マチャが呆れていると、ダークレートが口を挟む。
「別に気にするようなことじゃないでしょ。女の一人や二人」
「許さない……」
「は?」
「あたしらが仕事してるときに女なんて作りやがって! なに一人でリア充になってんだよッ!」
そこからストロベリーの喚きが始まった。
バニラは怪我で休みをもらって毎日青春を満喫してやがると、烈火のごとく怒り狂う。
「ズルい! ズルいズルいッ! あたしだって男欲しいよ! 祭り行きたいよッ!」
「はぁ……。わかったわかったから、次の休みにどっか連れて行ってやるから」
「マジで!? やったー!」
マチャにそう言われたストロベリーは、カカオを抱き上げてはしゃぎ始めた。
物凄く嫌そうにしている小熊のことなど気にせずに、そのフサフサの身体を掲げて狭い部屋で踊っている。
「いいのマチャ。そんな甘やかして」
「ま、いいだろう。このところ真面目に仕事を手伝ってくれてるし。ダークレートはどっか行きたいところあるか?」
「はいはい! あたし遊園地に行きたい!」
「マチャはアタシに訊いてるんだけど……」
会話に割り込んできたストロベリーに、ダークレートは怪訝な顔を向ける。
ストロベリーはそんな彼女のことなどやはり気にせずに、次の休日のプランを話しだしていた。
マチャがそんな二人のことを、ため息交じりで眺めながら笑みを浮かべる。
「なんで遊園地なんだよ。勝手に決めるな。アタシはどうせどっか行くなら水族館がいい」
「ヤダヤダヤダァァァッ! 水族館なんてヤダだよ! いいじゃん! 遊園地楽しそうじゃん!」
「アンタ、喚けばなんでも思い通りになると思ってじゃねぇよ」
そう言いながら、ストロベリーからカカオを奪い返したダークレート。
そんな彼女に同意するように、カカオが「ガウガウ」鳴いている。
「よし、じゃあ次の休日は皆で遊園地と水族館両方へ行くか」
そして、マチャがそう言ったとき――。
彼女の後ろから、大きなつばの帽子――ソンブレロを被った男が現れた。




