#117
――バニラがメキシコ料理屋へと向かっている頃。
マチャはダークレートとストロベリーを連れ、スパイシー·インクの残る幹部について調べていた。
すでにジャークは始末し、ベヒナ、チゲ二人は捕えており、後は三人を残すのみだ。
「なになにリコンカーン、ウィング、ボボティてゆーのか。なんかスパイシー·インクの幹部って変な名前のヤツが多いね」
渡された資料をスマートフォンで見ているダークレート。
チゲとの戦いの後、マチャは同居しているダークレートたちにスマホを与えた。
それは、彼女たちが連絡手段を持たなかったからだった。
ダークレートもストロベリーも、買ってもらってからすぐに使いこなしていたが。
バニラのほうは、そもそも持ち歩くことすらしてない。
どうも彼はそういうガジェットの操作が苦手のようだ。
各幹部のビルを回ったマチャたちが街を歩いていると、ストロベリーは言う。
「ねえ、マチャ。このスマホさ。見れないサイトが多すぎるんだけど」
「そりゃそうだろう。島の外の情報は、スパイシー·インクの一部の人間以外には見れないようになってるんだから」
マチャがストロベリーへ言ったように――。
この人工島テイスト·アイランドでは、島の外へのアクセスは制限されている。
その理由は、島を仕切っているスパイシー·インクへの批判を抑えるためだと一部の者からは思われている。
それは外の世界の情報を得ることによって、島民が好き勝手に島の支配体制に意見を言わないようにするためだ。
だがいくらブロックしたところで、ジェラートのような海外へのアクセスを何らかの方法で可能にしている者もおり、そこまでガチガチの情報規制を行っているわけではない。
それでもスパイシー·インクに見つかれば処罰される。
そこまで危険を冒してまで、島の外のサイトを見るメリットが島民たちにないというだけだ。
「えぇー、なんか世界の救世主たちがお尋ね者になったって記事見つけたのにぃ」
「お前は本当に犯罪者のニュースが好きだよな」
「だって面白いじゃん。悪いことするヤツってどういう人間なのかってさ。それに救世主たちってなんかすっごい能力とか持っているみたいだし。ちょっとしたバトルものみたいで楽しい」
「……救世主については、今度詳しく話してやるから諦めろ」
「マジでッ!? じゃあ帰ったら聞かせてよ」
機嫌が良くなったストロベリーはスマートフォンをしまうと、スキップをしながらマチャとダークレート二人を追い越していった。
ストロベリーはマチャの教育の甲斐もあり、以前ほど他人に迷惑をかけなくなった。
だが、それでもまだ感情が高ぶると、周囲のことなど気にしなくなってしまう。
マチャがそんな彼女の背中を呆れて眺めていると、ダークレートが声をかける。
「意外だね。マチャってそんなヒーローみたいな人たちのこと好きだったんだ」
「私にだって趣味くらいはある。特にテネシーグレッチ姉妹とジャズ·スクワイアは、十代の頃の私のアイドルだ」
「えッ? マチャってそっち系のオタクだったの? これは驚愕の事実だわ……」
マチャの意外な一面を知ったダークレートは若干引いていたが。
それでも心なしか嬉しそうにしていた。




