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#116

「えッ? でもみんな金払って……」


バニラはポンチョ姿の人物に声を掛けられ、言葉に詰まってしまっていた。


慌てふためている彼を見て、ポンチョ姿の人物はさらに笑う。


「ハハハ、このお金は聴いてくれていた人たちの気持ちだから、無理して払うことないんだよ」


「そ、そうなんだ……」


「ねえ、君も聴いていてくれたよね。どうだった? 僕の演奏?」


首を傾げて訊ねてくるポンチョ姿の人物。


バニラは自分の感想を上手く説明することができず、ただ良かったとだけ答えた。


それを聞くと、ポンチョ姿の人物は嬉しそうに身を乗り出して来る。


「ホント! よかったぁ。今日初めて聴いてくれた人っぽかったから、ちょっと不安だったんだ」


ポンチョ姿の人物はそう言いながら片づけを始めた。


アコースティックギターをケースへとしまい、設置したマイクとそのスタンドをたたみ、さらに小さなスピーカーやギターアンプの電源を切っている。


「僕の名前はエンチラーダ。君は?」


「バニラだけど」


「フフフ、いいねぇ。バニラかぁ。甘くておいしそう」


「おいしそうって……」


バニラはこれまで同年代の友達がいなかった。


マチャのところへ来る前は、今は無きホワイト·リキッド三号店のマスターだったロッキーロードの家にストロベリーたちと住んでいたが。


今ほど顔を合わすことはなく、会話をするようになった現在でも友人とは少し違う。


そのせいか。


歳の近い人間を前に、一体何を話していいかわからなくなっていた。


さらにエンチラーダのように、相手から好意的に話しかけられたこともない。


経験でいえば年の離れたジェラートくらいか、または二号店の先輩だったラメルくらいだ。


「ねえ、お腹すかない? よかったらこの近くに僕の働いてるメキシコ料理屋があるんだけど。演奏聴いてくれたお礼にサービスするよ」


「メキシコ? メキシコってなんだ?」


「知らないなら来てみれば。きっと気に入るよ」


エンチラーダはキャリーカートに機材を積み、入っているポンチョを揺らしながら行ってしまう。


(甘い匂い……。香水ってヤツか?)


長い髪――エンチラーダから香る匂いに、バニラはまたも立ち尽くしていると、早く来るように声をかけられる。


「ほら、早く早く~。でないと置いてっちゃうよ」


「あ、あぁ……。今行く……」


エンチラーダの後を追い、言われるがままついて行くバニラ。


先ほど会ったばかり――。


言葉も二言、三言会話を交わしただけなのだが。


バニラはエンチラーダのことが気に入っていた。


それは先に聴いた演奏の効果もあったかもしれないが、それ以上の理由が明確にあった。


彼はこのときに思う。


自分は、自分に優しくしてくれる人間が好きなんだと。


(ジェラートさん……。今日、オレにもはじめての友だちができそうです……)

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