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#114

大きなつばの帽子――ソンブレロを被っている男が、飲食店のテーブルで食事をしていた。


その帽子とは不釣り合いなスーツ姿で、チリドックやチリチーズフライなど頬張っている。


男の名はリコンカーン。


この人工島テイスト·アイランドを仕切っている警備会社――スパイシー·インクの幹部だ。


彼は社長であるレカースイラーから、このところ起きた組織の幹部たちの失踪の件を任され、行きつけのメキシコ料理屋で英気を(やしな)っていた。


「兄さん……。なんだよ、急に」


リコンカーンが食事をしていると、彼の前に一人の人物が現れた。


その言葉から(さっ)するに、おそらく彼の家族だろう。


顔をマスクで隠した髪の長い人物だ。


声が高く、体型も小柄なせいか。


少年とも少女とも思える。


「よう、実はお前に手伝ってもらいたいことがあってな」


気さくにそう返事をしたリコンカーンは、テーブルにあったリュウゼツラン科の植物の樹液を発酵させて作るアルコール――プルケを飲む。


一見して白濁したカルピスのような飲み物だが、メキシコの伝統的な醸造酒だ。


リコンカーンの言葉に、その人物の目元が強張る。


マスクと長い髪の間から細められた眼光が、目の前にいる家族へと向けられた。


そんな視線を浴びながらも、リコンカーンは言葉を続ける。


「調べてほしいんだよ。なぁーに、相手の目星は付いている。あとはお前が――」


「もうやめてよ……」


マスクをした人物が、リコンカーンの言葉を(さえぎ)った。


その声は表情とは違って弱々しかったが。


たしかな意思を持って家族の頼みを断る。


「こういうのさ……。兄さんも会社と縁を切って、もうこういうことは――」


「おい。これまで誰のおかげで食って来れたと思ってんだよ」


今度はリコンカーンが言葉を遮る。


彼は言った。


この貧富の差が激しいテイスト·アイランドで、贅沢な暮らしができているのは誰のおかげなのか。


両親を失った自分たちが、これまで他人が(うらや)む生活をして来れたのはどうしてなのかを。


理由こそ言っていないが。


静かながら威圧感のある言い方で口にした。


「……わかったよ。でも、もうこれで……」


「わーってるよ。これで最後だ。そしたら島を出るなり、あとはお前の好きにしていい」


リコンカーンの陽気な声を聞き、マスクの人物は思う。


そういっていつも最後ではなないと。


だが、それでも兄には逆らえない。


リコンカーンはそれをよくわかっているのだ。


「じゃあ、こいつのことを調べてくれ。いつもみてぇに早めに頼むぞ」


チリドックにかぶりついたリコンカーンは、ジャケットのポケットに入れていた写真をテーブル出す。


その一枚の写真には、白髪の少年――バニラが映っていた。

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