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番外編 ラメルという男

ホワイト·リキッド二号店が出来たばかりの頃――。


店のマスターとなったマチャには、彼女のサポートしてラメルが来ることになった。


これから従業員たちを増やし、店を盛り上げて行こうというときだ。


だがマチャは店で働きに来た少年少女に冷たく、そして威圧的に当たり、オープンしてからも二号店は二人で回している状態だった。


それはマチャなりに優しさだった。


彼女としては、ジェラートの目的であるスパイシー·インクの壊滅――。


この人工島テイスト·アイランドの支配する組織との戦いに、未成年者を関わらせたくなったのだ。


実際にマチャは店を辞めた少年少女のその後の面倒も見て、まとな仕事――清掃業やゴミ回収などの業務を紹介している。


「なあ、マチャってどういうのがタイプ?」


オープンからしばらくして、マチャとラメルは一緒に食事をすることが増えた。


そんな飲みの席で、ラメルがふと訊ねた質問にマチャはわかりやすく表情をしかめる。


「そんなこと聞いてどうするんだ? まさか本店の人たちに言いふらして、私を笑いものにでもするつもりなのか?」


「んなわきゃないだろ。これから一緒に仕事していくんだから、俺はただ相棒のことを少しでも知ろうとだな」


「それ、セクハラだぞ」


ホワイト·リキッドで働く人間の多くが。


互いにこれまで何をしていたのかや、正確な年齢などは訊かなかった。


だが、ラメルはマチャによく質問をした。


それは彼が口にした通り、これから一緒に仕事をしていく人間のことを知ろうとしたからだろう。


マチャもまた、そんな彼に知る必要がないことを訊ねていた。


軽いものでいえば食事の好みや好きな色。


今まで観た映画や本、聴いていた音楽など。


一緒にいる時間が長くなるにつれて、二人の仕事には関係のない会話は増えていった。


煌びやかなスイーツ&バーでの仕事の裏では、スパイシー·インクに関わる人間を少しずつ排除していく。


ジェラートもさらに仕事を広げるために三号店をオープンさせ、二号店以外では毎日のように少年少女や従業員らが仕事に失敗して死んでいく話が、マチャとラメル二人の耳にも入るようになった。


そんな暮らしが続き、初めてマチャがラメルの家に泊まったとき――。


ラメルが気を遣ってベットを彼女に(ゆず)り、自分はリビングのソファーで眠ろうとした。


そんな彼にマチャが言う。


「そんなに気を遣わなくていい。私は気にしないから、この部屋で寝なよ」


ベットにマチャ。


その横に布団を敷いて横になったラメル。


並んだ二人は部屋を暗くして話を続ける。


「また人が死んだんだってな」


「あぁ、こんな仕事だ。当然死ぬ」


酒や食事をしながらとは違い、部屋を暗くして話す内容は明るいものではなかった。


二人とも仲間の死を聞くたびに、自分がいつ殺されるのかを考えていたのだろう。


初めての泊まりの夜でも、そこには男女の甘いラブロマンスやロマンティック雰囲気はなかった。


「なあ、マチャ」


「うん? なんだ? ベットは譲らないぞ」


「いや違うって……」


マチャの言葉に吹き出しそうになったラメルだったが、すぐに気持ちを切り替えて訊ねる。


「俺と一緒に、この島を出ないか?」


彼の誘いに、マチャは何も答えられなかった。


まさかそんなことを当然言い出すとは、彼女は思ってもみなかったのだ。


だが、マチャはその話をうやむやにしようと軽口を返す。


「飲み過ぎだぞ、ラメル。まったく相変わらず弱いな、お前は。いいからもう寝よう」


「おい、俺は酔ってないぞ」


「酔っ払いはみんなそう言う。おやすみ」


それからラメルは、もう二度とその話を口にはしなくなった。


彼が殺される前日まで。


その後、ロッキーロード任されていた三号店が閉店となり、そこで働いていた少年少女たちが二号店にやって来た。


バニラ、ストロベリー、ダークレートの三人だ。


彼らは、最初のうちこそマチャと揉めることが多かったが。


両者の間にラメルが入ることで、次第に彼らも二人に心を許すようになっていった。


「ねえラメル」


「うん? なんだよストロベリー」


ある日に店の仕事で、ラメルがストロベリーと二人になったとき。


彼女はラメルに卑猥(ひわい)な笑みを浮かべて訊ねた。


「あんた、マチャのこと好きっしょ」


恋愛話が大好きなストロベリーは、すぐにラメルのマチャに対する気持ちを察した。


だが、こうやって本人に直接訊いていることでわかるが、誰がどう見ても面白がっていそうだ。


まさに、からかってやろうというのが透けて見える行為である。


「あぁ、好きだよ。よくわかったな」


だが、ラメルは少しも照れることなく言い切った。


ストロベリーからすると、彼の慌てた顔が見たかったのだが――。


「あんたねぇ……そういうのって、もうちょっとオブラートに包むか、口にはしないものでしょ……」


「ダメか? こういうの?」


「いや! そんなことはぜんぜんッ! ……む、むしろカッコいいっていうかぁ……」


「なんだよ? 急に声を小さくして? なに言ってるのか聞こえないぞ?」


「聞こえなくていいよッ!」


反対に好きな相手を誤魔化さないラメルの態度に、彼女は好感を持った。


何故か顔を赤くしてストロベリーがラメルに言う。


「な、なんだったら、あたしがサポートしてあげよっか?」


「なんだよ、ストロベリーってそういうのが得意なのか? 恋のキューピッド的な?」


「こう見えてもあたしはテイスト・アイランド最強の恋愛強者なんだよ。男と女のことならあたしにまっかせなさい!」


「ハハ、そいつは頼もしいや。じゃあよろしく頼むよ。俺のキューピッドさん」


「ムゥッ! その顔、信じてないな!」


まるで兄妹の親しくなったラメルとストロベリーだったが。


ラメルはこの後に亡くなった。


ストロベリーがマチャと彼のキューピッド役をやる前に。


彼が亡くなった次の日の夜――。


マチャが自分の部屋で寝ていると、なんの前触れもなくストロベリーが入ってきた。


「おい、ノックぐらいしろ」


「ねえ、マチャ……。一緒に寝てもいい?」


「お前、なにを言って……」


突っぱねようとしたマチャだったが。


沈んだ表情をしていたストロベリーを見て、同じベットに眠ることを承諾した。


一人用のベッドで並んで横になる二人。


マチャがおやすみと口にすると、ストロベリーは彼女の体を掴んで言う。


「あたしね……。ラメルとマチャをくっつけてあげるって……約束してたんだよ……」


か細い声でストロベリーは続ける。


「マチャはそういうのに(にぶ)そうだから……あたしが手伝ってあげるって……」


「そうか……」


ストロベリーに背を向けながら返事をしたマチャ。


そんな彼女の背中にすがり、ストロベリーは声を殺して泣いた。

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