#110
――マチャがバニラたちのもとを去った頃。
ストロベリーはジェラートたちホワイト·リキッドの従業員たちと共に、捕えたチゲの前にいた。
椅子に括り付けられ、手足はもちろん頭さえ固定された状態のチゲを見て、ストロベリーが得意気に声を張り上げる。
「ねえねえジェラートさん、あたしがこいつを捕まえたんですよ! 敵の幹部をこのあたしが!」
彼女たちがいる場所はホワイト·リキッドの本店の地下室。
ここへ来るまでの間に、何度も自分の手柄を口にし続けているストロベリーに、作戦の指揮を執っていたグラノーラや、彼の妹のシリアルも辟易している。
それでも実際に目標を捕えた彼女のことを含め、約一ヶ月で実力を付けたバニラ、ダークレートことは素直に認めていた。
ここまで使えるようになるとは思わなかった――。
それはグラノーラやシリアルだけでなく、ホワイト·リキッドで働く従業員たちの素直な気持ちだった。
「凄いね。偉いよストロベリー。あなたのおかげでこうやって、敵を捕まえることができた。お手柄だね」
「ワッハハッ! もっとッ! もっともっと褒めてくれていいんですよ!」
そんなストロベリーに呆れることなく、何度も彼女のことを褒め続けているジェラート。
その場にいた従業員全員が、さすが子供の扱いが上手いと、呆れながらも感心していた。
「ねえねえジェラートさん。こいつを痛めつけていい? 殺さなきゃなにしてもいいでしょ?」
「ストロベリーはどうしてこの人を痛めつけたいの?」
訊ね返してきたジェラートに、ストロベリーは顔をムッと強張らせる。
それから彼女は気を失っているチゲの頭を叩きながら、その理由を説明し始めた。
この目つきの悪い男――チゲは、自分に優しかったラメルが殺された原因の一人だ。
だから苦しませてやらないと気が済まないと、バシバシとチゲの頭を叩き続ける。
「優しんだね、ストロベリーは」
「そう! あたしは優しいの! だからいいでしょジェラートさん」
甘えるように言ってきたストロベリーに、ジェラートは微笑んだ。
しかし、それでも今は我慢してほしいと、彼女に頼み始める。
「ごめんね。今はちょっと急いでいて、早くこの人にいろいろ話してもらわなきゃいけないの」
「ムゥ……。ホントはヤダけど……。こいつを肉屋の牛にみたいに吊るしてやりたいけど……。ジェラートさんが言うならガマンする……」
ガクッと肩を落としたストロベリー。
ジェラートはそんな彼女の肩に触れると、申し訳なさそうな顔をした。
この場にいた従業員たちの誰もが、こんな赤毛のワガママに付き合う必要はないと思って、皆表情を歪めている。
ジェラートが気にすることはないと。
「この埋め合わせはちゃんとするから、楽しみにしててね」
「ホントッ! うわーい! なんだろう!? 嬉しいな~楽しみだな~」
「ところでストロベリー。ちょっとお願いがあるんだけど。マチャのことを呼んで来てくれないかな」
「うん! わかった!」
一瞬で機嫌が直ったストロベリーは、ジェラートに言われるがままマチャのことを呼びに地下室から出ていった。
部屋に残されたジェラートと従業員たちは、それから拘束されているチゲへと近づいていく。
「じゃあ、始めようか」




