#107
ジャケットから取り出されたのは拳銃だ。
銃口をダークレートに向けてチゲが引き金に指をかける。
「汚ねぇぞ!?」
「うるさい! 死ねッ!」
それを見たバニラが吠えたが、チゲは躊躇なく発砲。
弾丸がダークレートの目掛けて飛んでいった。
しかし、吠えたバニラが拳銃を握っていたチゲの手を蹴り飛ばしたため、放たれた弾丸は彼女の足に当たって致命傷を避けることに成功した。
それでもダークレートはもう戦えない。
足を撃たれた彼女はその場にうずくまって悲鳴をあげている。
「大丈夫か?」
「死ぬほど痛いけど……。おかげで助かったよ。アタシのことはいいからアンタはそいつを捕まえて」
二対一という優位が消え、チゲも蹴り飛ばされた拳銃を拾おうとはせずに、バニラへと向き合う。
バニラもまたダークレートに言われた通りに、そんな敵を睨みつけながら身構える。
一対一というショッピングモール――フードコートでのときと同じ状況へとなったが。
あのときとは違う。
バニラはたとえ一人でもチゲを倒せると、ジリジリと距離を詰めていた。
「いくら腕を上げようが、お前だけで私は倒せん」
チゲも再びファイティングポーズを取る。
バニラにそう言い放ち、少しずつ近づいて来る彼にプレッシャーをかける。
「拳銃は使わないのか? 今ならまだ拾えるだろ?」
「お前こそ、あの妙なドリンクは飲まんのか? こういうときに使うものだろう、あれは」
「飲むなって言わなかった?」
「たしかに言った……。だが戦闘中に言った敵の言葉を真に受けるな、馬鹿が」
チゲはバニラに苦言を吐くと突進。
前屈みとなって左、右の拳を連打していく。
止まることのない激しいラッシュに、バニラはただ身を固めることしかできない。
「オレさ。こないだお前に一方的にやられて思ったんだ……」
拳の連打を受けながら、バニラがポツリと口を開いた。
それでも当然チゲは手を緩めない。
そして、やはり自力に差があるせいか。
チゲの攻撃が徐々にバニラにヒットし始まる。
「こいつにはドリンクなしで勝ちたいって……」
「いい心がけだが、ここでお前は死ぬ。終わらせてやるよ!」
チゲが連打から一転して右拳を振り上げた。
腰のひねりとしなった木の枝を思わせる動きで力を上乗せさせた攻撃だ。
これまでの放った速度で戻すジャブとは違い、渾身の右ストレート。
だがバニラは、彼がそのモーションへと動いた瞬間に笑みを浮かべていた。
「これも、マチャが教えてくれた技だ……」
放たれたチゲの拳よりも速く、バニラの左フックが振り抜かれた。
それがチゲの顔面を打ち抜き、彼はその一撃で沈む。
「ば、馬鹿な……? クロスカウンターだと……?」




