#104
扉が閉まり、エレベーター内に残されたバニラとダークレート。
ストロベリーとマチャを置いてエレベーターは最上階へと上がっていく。
「死んだらメシ抜きだって」
「あぁ、メシ抜きはヤダな」
ダークレートが笑いながらバニラにそう言うと、彼も口角を上げていた。
それから特に会話することなく、エレベーターは最上階へと到着する。
扉が開くと、そこには部下を引き連れたスーツ姿の男――チゲが立っていた。
その手下の数は二人だけ。
下の階に比べるとずいぶんと少ない。
「白髪、やはりお前らか」
チゲはその目つきの悪い目を細めて、バニラとダークレートを見据える。
声を抑えてはいるが。
チゲは明らかに怒りをみなぎらせているのがわかるほど、顔を強張らせていた。
「待っててくれたんだな。さっさとやろうぜ」
バニラがエレベーターから出ると、チゲの傍にいた二人の警備服の男が警棒を構えた。
だが、チゲは部下を手で制すると、バニラに返事をする。
「まあ待てよ。少し話をしないか?」
「はあ? 話?」
バニラは緊張感の欠片もなく、その小首を傾げた。
そんな彼に対して、チゲは両手を上げてその手の平を見せながら言葉を続ける。
「お前ら、こないだは使ってなかったが、妙な飲み物を飲むと強くなるんだろう? それが一体何なのかわかってるのか?」
チゲに訊ねられたバニラは、隣に歩いてきたダークレートのほうへ顔を向ける。
「お前、知っている?」
「いいや。そもそもアタシは飲むつもりないし」
「そっちの黒髪が正解だ。もう二度とそいつを飲むのを止めろ」
チゲはそう言うと、険しい顔のまま話を始めた。
彼は現場に残っていたトランス·シェイクの成分を調べ、その正体を知ったと言う。
「あれは薬物のようなものだ。全身に現れるタトゥーのような模様は浮き出た血管で、長く使用し続けるとやがて廃人になる」
「なんでお前がそんなことを言うんだ?」
「お前のことを心配してんだよ、小僧」
「へッ? なんで?」
チゲの話を聞いたバニラは不可解そうにすると、またダークレートのほうを見た。
だが、ダークレートのほうはチゲの言葉に思うところがあるのか。
その顔をしかめている。
「チャンスをやる。今この場で私につけ。そして、下にいる連中の正体を教えろ。そうすれば今後のお前たちの生活、いや人生の安泰は私が保証してやる」
「意味がわかんないんだけど?」
「互いに水に流そうと言っているんだ。私は同僚を失った。お前たちのほうも同じだろう。こっちはお前たちに指示を出した人間を知りたいだけなんだ」
ここへ来て投降するように言ってきたチゲ。
バニラはさらに不可解そうにすると、ダークレートに訊ねる。
「なあ、こいつなに言ってんだ? お前、わかる?」
「仲間を裏切って寝返ろって言ってるんだよ。こないだ教えてあげたマンガでそんな話があったでしょ」
「あぁ、あったな。そっか、そういうことか。それで、お前はどう思う?」
「アタシは別に仲間とかはどうでもいいけど。ラメルを殺したこいつらは絶対に許せない」
「そっか。それはオレもそう思うわ」
バニラはダークレートの意見に納得すると、ゆっくりとチゲへと歩き始めた。




