#101
――スパイシー·インクの所有するビルに、チゲが部下たちと共にいた。
ここは幹部である彼が自由に使っているものだ。
そして集めた部下たちも、全員チゲが会社に入ったときから共に仕事をしてきた人間たちである。
「ベヒナがどこにいるかはわかったか?」
ソファーに腰を下ろしたまま、落ち着かない様子で訊ねるチゲ。
部下たちは、そんな彼のことを心配そうにしながら答えた。
ホワイト·リキッド二号店の従業員――マチャとラメル襲撃後。
ベヒナの部下ら死体は発見されたが。
マチャ、ラメル、ベヒナ三人の姿はなかった。
血痕から判断するに、激しい戦闘があったとは考えられると、背筋を伸ばしながら口にする。
その話を聞いたチゲは、眉間に深く皺を寄せた。
「それは前にも聞いた。私はベヒナはどこにいるかを訊いたんだ」
「申し訳ございません」
「あれから一ヶ月以上経っているんだぞ。まったく、もっとしっかりとしてもらわんと困る」
声こそ張り上げていない。
しかし、チゲは明らかに苛立っていた。
普段の彼の態度から誤解されがちだが。
チゲは言葉こそ少ないものの下の者には優しい。
こういったわかりやすく部下たちの前で怒りを見せることなど、これまでにはなかったことだ。
それほどベヒナの安否が心配なのだろう。
ベヒナが予想したジャークを殺した主犯格――マチャの襲撃が成功したのか。
それとも返り討ちに遭ったのか。
現状で彼にそれを知る術はない。
だが、チゲにはわかっていた。
もしベヒナがどこかに潜伏――身を隠さなければいけない状態だったとしても、自分にだけは知らせるはずだと。
彼女から連絡がないということは、おそらくどこかに捕らわれているか、もう殺されている可能性が高い。
そのことを考えると、チゲは気が狂いそうになる。
「ジャークに続いてあいつも……クソっ!」
襲撃後、ホワイト·リキッド二号店は閉店
チゲは本店である一号店を調べるように部下たちに言っていたが。
ホワイト·リキッドがスパイシー·インクの社長――レカースイラーの行きつけの店というのもあって、あまり派手な捜査はできないでいた。
すでにチゲは勘づいていた。
スパイシー·インクに関わる人間やジャークを殺した主犯は、マチャではないということに。
「あいつだ……あの女だ……。殺してやる……絶対に殺してやるぞ……」
静かに独り言をブツブツと口するチゲ。
必ず犯人を殺してやると、彼は怒りをたぎらせていたが。
まさか自分が、その犯人の標的にされているとは考えもしていなかった。




