#100
――その後、大した会話もなく、マチャはジェラートと別れてホワイト·リキッドの本店を出た。
彼女が店の外へ出ると、そこには二人の男女が停車した車の前に立っていた。
ホワイト·リキッドの一号店の従業員である兄妹。
兄のグラノーラと妹シリアルだ。
「よかったら送ってくぞ」
「私たちも今仕事終わって帰るところだから」
兄妹はマチャを家まで送ると言い、彼女は頭を下げてグラノーラの車の後部座席に乗り込む。
続いてグラノーラが車のドアを開けて運転席へ、シリアルは助手席に座る。
グラノーラはエンジンをかけてハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ。
「あいつらはもう仕上がってるんだろ? じゃあ近いうちにラメルを殺った連中を始末しに行けるな」
グラノーラが何気なくマチャへと訊ねた。
だが、彼女は返事をしない。
俯いて自分の靴を見つめているだけだ。
そんなマチャのことをバックミラーで見たグラノーラは、その顔をしかめる。
「正直ムカつくわ。お前のさ。その子供どもに対する執着」
「やめなよお兄ちゃん」
「お前は黙ってろよ。こいつは俺たちの命にも関わってくんだぞ」
妹が止めてきたが、グラノーラは彼女を制して話を続ける。
「罪悪感を覚えるのはわかるし、ジェラートさんだって好き好んで子供どもを使ってるわけじゃねぇ。それなのにお前は――」
「お兄ちゃん! いい加減してよ!」
グラノーラの言葉を聞いて、シリアルが堪らず声を張り上げた。
彼女は今にも泣き出そうなほど感情的になって兄を止めてくる。
「そういうお兄ちゃんだって、最初はマチャさんと同じだったじゃない!?」
「そうだ……。だけど今はもう受け入れる。だから俺はこいつに――」
「そんなの、わざわざ他人に言われるようなことじゃないでしょ!?」
兄の言葉を遮って叫び続けるシリアル。
これにはさすがのグラノーラも黙り、不機嫌そうに車の速度を上げていく。
そんな雰囲気の中で、マチャが口を開く。
「グラノーラさん、シリアル……。すみません……。私のせいで二人を喧嘩させてしまって」
慇懃に謝罪するマチャへと振り向き、シリアルが彼女に微笑む。
「そんなのマチャさんが気にするようなことじゃないよ。お兄ちゃんが悪いんだから」
「お前なぁ……」
「だってそうでしょ?」
その後、車はマチャの自宅へと到着。
彼女には車を降りると、窓を開けてきたシリアルと不機嫌そうにしているグラノーラに向かって、また頭を下げた。
「グラノーラさん……ご忠告、感謝します」
「ケッ、わかりゃいんだよ」
「でも、それでも私は、あいつらが戦うのが嫌です……」
マチャが顔を上げてそう言うと、グラノーラは返事をせずに車を発進させた。
去って行く車の中では、兄に食って掛かっているシリアルの姿が見える。
何も言わずに車を発進されたグラノーラに怒っているのだろう。
先ほどと同じように、今にも泣きそうな表情で喚いている。
そんな妹に対して、グラノーラは困っていそうだった。
「その通り……。あんたの言う通りだよな、グラノーラさん……」
マチャはそんな兄妹を見て、また深々と頭を下げた。




