#99
――それからマチャは、ホワイト·リキッド一号店――本店で向かった。
それはジェラートに、バニラたちへの指導の進捗状況を知らせるためだった。
彼女と二人きりで店の控室で顔を合わせ、椅子に腰を下ろして向き合う。
「お疲れさま。それでどう? 彼らへの仕上がりは?」
「以前よりは使えるようになったと思いますよ」
そう言うマチャの顔は暗い。
彼女が浮かない顔をしていることに気が付いたジェラートは、身を乗り出して訊ねる。
「言葉と表情が合っていないように見えるけど。どうしたの? 何か問題でもあるのかな?」
両方の眉毛を下げて心配そうにしているジェラート。
マチャは彼女から視線をそらしながら、言いづらそうに口を開く。
「正直、子供を使うのは好きじゃないです……。あいつらの年齢なら本来は学校へ行っていて、こんな血生臭いことに手を染めているのはおかしい……」
ジェラートはマチャのことを見つめたまま、ただ黙っていた。
彼女の言葉に何も言わずに、そのまま心配そうに眺めているだけだ。
視線をそらしていたマチャは、やはりジェラートを見ることなく、俯きながら話を続ける。
「最近、酒の量が増えました」
「それはラメルの死が原因かな?」
「それもありますが……。たぶん、あいつらに情が湧いてるんだと思います……」
マチャはバニラたちのような少年少女を、スパイシー·インクとの戦いに参加させることに嫌気が差しているようだった。
元々彼女は自分の任されていた店――ホワイト·リキッド二号店に入った未成年者たちにわざと冷たくし、辞めるように仕向けていた(その後は辞めさせた子供たちを、スラムではなく別の場所で働けるようにしていた)。
そのことはジェラートも知っている。
彼女からすれば、今さらとでも思いそうだったが。
真摯な態度で、マチャの話に耳を傾けていた。
「ジェラートさん……。あいつらを辞めさせてやれないですかね……」
「そうだね……。あなたの言っていることはわかる。でも、トランス·シェイクのことはあなたも知っているでしょ?」
ジェラートのお手製のドリンク――トランス·シェイク。
飲むと人知を超えた腕力を手に入れ、あり得ない速度で動けるようになる。
しかし成人には効果がなく、その効果が現れるのは未成年者のみ。
そのため、ジェラートに拾われた子供たちは、全員このドリンクを飲んでいる。
たかが飲食店の集団が、この人工島テイスト·アイランドを支配している組織――スパイシー·インクの壊滅させるためには、どうしてもドリンクの効果を得られる未成年者の協力が必要だった。
「わかっています……。それはわかっているんですが……」
マチャはそう返事をしたが。
それ以上の反論は出てこなかった。




