#1
降り積もる雪の中、一人の少年が路地裏で縮こまっていた。
もう何日も食事を取っていないのだろうその身体は寒さに震え、生まれつきなのか、周囲を埋め尽くす雪と同じ真っ白な髪は伸びっぱなしで、着ているものもみすぼらしい。
その姿から見るに、白髪の少年には帰る家がないのが一目でわかる。
白い息を吐きながら、必死に自分の身体を抱きしめる少年。
空から降って来る雪は、残酷にも彼の体温を奪っていく。
白髪の少年は空腹を感じ、凍えて感覚のなくなった手を握って考える。
どうして自分には家がないのだろう。
どうして親は自分を傷つけるのだろう。
どうして自分には普通の生活が与えられなかったのだろうと。
少年は贅沢など望んでいなかった。
雨風を凌げる家と、日に何度かの食事、そして暖かいベット。
たったそれだけ――。
彼は、そんな誰でも当たり前に与えられる恩恵を、享受したことがなかった。
自分の頭に積もった雪を払う気力もないのか。
白髪の少年の全身を、その髪色と同じ白い雪が次第に覆っていく。
腹が減った。
フカフカのベットに横になりたい。
そんな欲求が少年の脳裏に浮かぶ。
だが、それよりも強い想いが、彼の心を埋め尽くす。
そうだ、誰かにオレは――。
「ねえ、キミ。大丈夫?」
そのとき、少年の目の前に傘をさした人物が現れた。
声は女性だが、その格好はコートを羽織った男性の洋装――ウエストコート姿だった。
久しぶりに罵倒や嫌悪のない他人の声を聞いた少年は、恐る恐る女性のことを見上げる。
真ん中で分けたショートカットの金髪。
そしてその顔は、少年がこれまで見てきた中でも一番整ったものだった。
手足が長く、身長は二メートルくらいありそう――。
さらに胸が大きいせいか、男装をしていても外見だけで女性だとわかる体型をしている。
穏やかな笑みを浮かべながら、心配そうに自分のことを見ている男装の麗人。
少年は思わず声を漏らす。
「だ、抱きしめ……」
少年はどうしてそんなことを口にしたのか、自分でも理解できなかった。
突然現れた微笑みかけてくれた女性に、思わず自分の望みを口にしていた。
これは夢――。
少年は、死ぬ前に神様が見せてくれた幻なのだ思いながらと、空腹と寒さで意識が消えていったそのとき――。
「これでいい?」
女性は傘を捨て、自分の羽織っていたコートを少年に被せると、彼のことを優しく抱きしめた。
生まれて初めて感じる人の温もり。
その大きな胸の柔らかさを感じながら、少年は自分はこのまま天国へ行くのだと思って意識を失った。