山田、異議を唱える
が、そこへ夢と呼んだ彼女の思いに異議を唱える者がいた。
「嘘だ! それは君の夢じゃない。君は、君の本当の夢を認めて欲しいんだろ」
山田幸喜だった。空中戦からの着地。聖来達を背にして、花咲里と向かい合って立つ。その身は負傷の跡が顕著であった。スーツはボロボロ、皮膚にはあざや出血が無数に見られる。
「違う! 私は、……私は! ここが……お父さんの手で……」
高ぶった感情が言葉になるのを拒否していた。
ドスン
白獏が傷だらけで落ちてきた。すぐさま起き上がる。
「やれやれ骨が折れるぞ。どんだけパワーアップしてんだ、あいつは」
「笹の葉さらさらだ。短冊の力を吸収してっからな」
そして黒獏も花咲里の背後に降りて来た。それによって花咲里は平静さを取り戻していた。すでに祠は半壊。あと一撃もあれば全壊する。そうなれば、残るは古木のみ。それらがなくなり、結界がなくなれば、街は浄化作用を著しく不安定化させる。そうなれば、黒獏が横行し、人々は夢を失くし、活力を失い、すたれていく。
「終わりね」
冷ややかな声が花咲里から漏れた。
――ああ、終わりだ
黒獏は四足から二足へ立ち上がると、そのまま前進。
「何?」
自分を覆う影が大きくなるのを見とめて、花咲里は振り向いた。黒獏の腹が触れた。すると、花咲里の身体は黒獏の対表面から体内へと、にみるみるうちに呑みこまれていった。
「花咲里さん!」
――人間の小娘など、たぶらかすのはちょろいな
黒獏が言う。それに憎々しさを感じない者は、そこにはいなかった。
「鈴音!」
木陰に隠れて、一部始終を窺っていた花咲里の父親が飛び出してきた。
「鈴音をどうした、返せ」
黒獏まで一直線で走って行くと、花咲里を吸収して膨らんだ腹に手を突っ込もうとしている。
「花咲里さん、危ない!」
戸内が一足飛びで黒獏まで近づくと、花咲里の父を引き離し、抱えて後退した。
「何をする。娘が。鈴音が!」
「分かっています。だから私達が……」
――お前らに何ができる。こんな娘のちんけな夢一つ守れん奴が
黒獏は高笑いする。
ザク。
歩みを始める音がした。