またしても
「速いな。あれは女子の脚力じゃないぞ」
前方を行く花咲里の背中がちっとも大きく成らない。
「少し話を聞きたいだけなんだ。僕にできることなら協力するし」
「……」
何度となく声をかけては見るものの少女は答えることはなく、一心に走って山田から逃れようとしていた。
「ったく、学校もこうなってるし」
山田が走っている廊下もすでに薄紫色のゲルが辺りを覆っていた。
――これは黒獏の作ったもの。普通の人間なら卒倒しているところだ。それをあれだけ走れているってことは
山田の推理を待たず、少女は下駄箱から外へ出た。外履きに履き替えることもせずに。だから山田もスリッパのまま追いかける。
「街全体?」
外に出てみれば、山田の言うように空も住宅もビルも木々もすべて薄紫色に染まっている。
「ンな、パワーがどっから……」
校庭の中心で少女が立ち止まっていた。そこまで駆ける。
「花咲里鈴音さん・・・・・僕は山田幸喜って言います。少し話しを」
「……」
それでも彼女は何も言わない。ただゆっくりと指を天に向かって突き刺した。いぶかしがりながら山田はその先を辿る。
「!」
黒獏が空で制止していた。そして山田に睨みを利かせた。




