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山田さんの新人研修  作者: 金子よしふみ
第一章 青い桜
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いつもの山田

 翌朝。

 山田が眠そうにアパートの鍵をかけた。そして階段を降り、いつも通りの道程を歩む。

「山田さん、おはようございます」

 聖来の家の前を回避しようとして、それができなくなる声がかかった。

「やあ、聖来ちゃん、おはよう。あ、おはようございます」

 見れば、聖来の父親も出勤に向かうのか出てきていた。

「山田さん、一か月ほど経ちましたけど、もう仕事慣れましたか?」

 妙に意味深なものの言いように山田に聞こえたのは、昨日の今日だからであった。

「ああ、まあね。いや、まだ不慣れかな……」

「山田君、これからこれから。じゃ」

 ぎこちなさそうに答える山田に、溌剌として聖来の父親は肩を叩いてから行ってしまった。

「山田さん、寝癖」

 聖来から手鏡を渡されて覗いてみると、確かに右の後頭部にはねた髪が。

「ま、いいや。間に合わないから。会社着いてから直すよ。ありがとう。じゃ、聖来ちゃんも気を付けて」

 聖来はそう言って歩き出す山田を見た。服装に頓着がないのは昨日と、いや一昨日と同じスーツで、いや半月前から同じスーツとビジネス用シューズであることからも分かる。

 寝癖はしょっちゅう。昨晩と違う所を探す。ネクタイをしている。ワイシャツの第一ボタンはちゃんと止まっている。ショルダーバッグを交差して肩から下げている。それらが違い、それらは聖来が知っていた山田の姿だった。照れ笑いやらをする、なよッとした感じが、あの眼光鋭く、背筋が伸び、ネクタイがなく、ワイシャツの第一ボタンを外した山田からは消えていた。

 だからつくづく思わされるのだ。人は一様ではないと。

 ――私は……ま、魔法は使えないしね

 そう思って、聖来は通学の歩を出したのだった。


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