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山田さんの新人研修  作者: 金子よしふみ
第四章 大祓
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白獏参戦

 それは白獏だった。一直線で黒獏に向かっている。黒獏もそれに気づいて反転。スピードを上げて白獏から逃げる。その逃避行は錐もみ飛行とかアクロバティックなそれであった。

 急停止する黒獏。白獏も止まる。対峙する両者。聖来は初めてそれを見た時と同じような風景だと思った。案の定、黒獏は姿を消した。

 それを見届けて山田は膝から崩れ落ちた。

「山田さん」

「幸喜、大丈夫か?」

 二人が駆け寄る。 

 音もなく白獏も下りて来た。

「新人、何をしている」

 唐突な言いように聖来が割って入ろうとした。が、肩を掴まれた。戸内であった。ヒーローは首を横に振っている。

「でも」

「いいから」

 山田は立ち上がった。

「俺のせいだ」

「その通りだ。いいか半人前。さっさとあいつを止めないと、夢の木が枯れるぞ」

 その言葉に山田は眼を見開いた。

「今回のも、貸しにしておくからな」

 立ち去ろうとする獏に、

「なあ」

 と力なく山田が声をかけた。

「なんだ?」

「口元、まだソースついてるぞ。あん時から拭いてねえのかよ」

 慌てて口元を手で拭う。今度は手が赤くなった。

「それだけ言えるなら、ましだな」

 身だしなみの恥ずかしさを隠すように、そう言って獏は空へ消えて行った。

「山田さん……」

「いいんだ。獏の言う通りだ。僕がしっかりしていれば……」

 そのはにかんだ表情が無理に作られたものだと言うのは明々白々であった。

「幸喜、復元するぞ。力はあるか?」

「ああ、それくらいは」

 そう言って、山田は雷が落ちた木に、戸内は拝殿に向かった。崩れてしまった、切れてしまった木や注連縄に手をかざす。円陣が浮かぶと、それらが逆再生されていくように元に戻り始めていた。

「すごい、あんなこともできるんだ」

 青い桜も同じかと、聖来は思い出していた。

 携帯電話が震えた。

「もしもし? さっき神社の方で雷が光ったみたいだけど、もしかして、もう着いてる?」

 花咲里からであった。

「う、えっとね。まだ。ちょっと道に迷って」

「そう。なんだか怖いわね」 

「あのさ、雷落ちたんなら、危ないから別の場所にしない?」

 聖来はそこにいないふりをした。

「そうね。どこがいい? 松林さんの言うところに行くけど」

「うんとね……あのさ、今日じゃないとダメかな。その相談て」

「うーん。できればそうして欲しいけれど、都合悪くなった?」

「なんかね、ちょっと」

「そうよね。夜も遅い時に私の方こそ急だったわね。ごめんなさい。そうしたらテストが終わってからでお願いできるかしら?」

「いいの?」 

「うん。もう少し自分で考えてみる」

「そう。ゴメンネ、こっちこそ」

「いいえ、あ、そうだ。道に迷ったのなら、車出しましょうか。お手伝いさんがこれから帰るみたいだから一緒に乗せてもらえるよう言うけど」

「いえ、大丈夫」

「そう。遠慮しなくていいのよ。私が勝手に言ったことでそうなってしまったのだから」

「全然。大丈夫だから」

「そう。じゃ、明日からのテストがんばりましょう」

「そうだね。おやすみ」

「おやすみなさい」

 電話が切られた。

 見れば、すっかり境内は元のままに復元されていた。

 スーツは汚れ、擦り傷だらけの山田。

 ヘルメットを脱ぎ、小脇に抱える戸内。

「山田さん……」

「大丈夫。さ、帰ろう。送っていくから。お前は着替えてからにしろよ。その格好で歩いていたら、間違いなく職質されるからな」

 境内に戸内を残し、去っていく山田と聖来。

 ヘルメットをバッグに仕舞う。

「それにしてもタイミングが良すぎるな、聖来さんにしろ、黒獏にしろ、白獏にしろ、電話にしろ」

 戸内にはそうした気になることがあった。しかし、その中で最もなことが

「背中のチャックどうしよう」

 というものだった。

 境内を掃除するかのような風が一陣吹いた。


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