電話
「もう、どこ行ったんだろ」
住宅街の街灯の下で、息を切らして聖来は辺りを見回していた。家まで山田から送り届けてもらったはいいが、それで終わりとは聖来はさすがに思っていなかった。それを山田に言ったところで彼は窮するだけだろうし、本当のことを言ったとしても、きっと制せられることは日を見るより明らかだった。
ならば、作戦に乗っていると見せかけておいて、後を追いかけた方が、確実に彼らが行おうとしていることが何か分かるというもの。それで玄関に潜み、山田が駆け出したところを、ついて行ったのだが、さすがに脚力の違いからか見失って、もう帰ろうかと思って立ち止まったのであった。
電話が鳴った。
「珍しい」
表示を見て、一言つぶやいてから応答した。
「もしもし?」
「こんばんは。花咲里ですけど」
「うん。どうしたの?」
「明日からテストなのに、急で申し訳ないんだけど、ちょっと相談したいことがあって」
「うん。私今外にいるから、どっかで会う?」
神妙なトーンのクラスメートからの申し出と、山田を見失ってしまった以上彷徨っていても仕方ないことから、相談に乗ることにした。
「いいの?」
「花咲里さんの方は? 家の人厳しくない?」
「大丈夫。勉強の気分転換に散歩に行くって言えばいいだけだし」
「そうなんだ」
「じゃあ、悪いんだけど今からいう所に来てもらえるかな。そこ本当に私がよく行く散歩のコースなの」
行き先を聞いて、聖来の目が光った。
「分かった。じゃ後で」
電話を切った。
「山田さん、見ーつけた。あ、そっか。早く行って花咲里さんを誘導しないとか。そうでないと獏が」
聖来は目的地に向けて駆け出した。