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勇者の帰還

 

 あれから、2日後、勇者達一行がボロボロになりながら、街へ戻ってきた。

 それを見た、民衆達は歓喜の声をあげ出迎えた。

 満身創痍で、歩くことすらしんどいのだが、この勇者は、名にふさわしいほど勇ましく右手を上げ、堂々と歩きながらギルドへ向かった。


 「やぁ、ギルドマスター。今回の依頼は無事に達成したよ」


 ローレンは、見ろよ。と言わんばかりに、魔法の袋なら次々に素材を取り出し並べた。


 「流石は、運のいい勇者様だ。これくらいは、こなせて当たり前か」


 「ふふ。運がいいのはそちら様では無いでしょうか? 勇者の功績で貴方たちは潤うのですから」


 ニールは変わらず、ギルドマスターに毒を吐き、自分達のおかげで飯を食えてるんだぞ。と、言いたげな物言いだった。


 「そりゃあ、そうか。勇者様のおかげで新しい船も手に入ったからな」


 これは、ギルドマスターの本心だ。

 彼がいなければ、国から貰ったタダ同然の新しい船を、金貨1000枚でアシエルに売ることはできなかったのだから。

 が、これは別にアシエルを騙してるわけではなく、ギルドマスターが国に提案をしたからこその、結果の為、アシエルも納得した上での金貨1000枚だ。 

 しかし、この世界では違法でもなんでも無いのだが、ハッキリ言ってこれは詐欺である。

 相手が心の広い(頭の悪い)アシエルにだからこそ、通用したのだ。


 「ほう? 船とは、私達がのる勇者様専用の船でしょうか?」


 この物言いには流石にギルドマスターもイラついたのか、レベル差があっても分かるぐらいの威圧を勇者達に向けてはなった。

 流石にこれには、ローレンも気がつき、平静を保っているが手足は小刻みに震えていた。


 「あのな? 一応言っとくが、お前らの船では無いからな? アシエルが持っている船にお前らが特別に乗せてもらってるんだ。そこを勘違いすんなよ?」


 「チッ。分かってますよそれぐらい。とりあえず、報酬の金貨50枚をいただきましょうか」


 「おぉ、そうだったな。なら、金貨50枚とお小遣いとして金貨10枚追加してやるよ。金が無いんじゃあ、旅をするのも辛いからな。それに、俺は金貨1000枚の依頼をこなした後だから、懐は潤っているんだ。気にする事はない」


 ギルドマスターが「依頼」と、言った言葉に、秘書が少しピクついたが、聞かなかったことにした。

 依頼。と、言う事は達成する必要があるわけだ。

 そして、今回はアシエルに金貨1000枚でタダ同然の船を売りつける事が達成するための条件。

 ここまで、言えば分かると思うが。

 ギルドマスターにアシエル達は狩られたと、同義である。

 ギルドマスターと名乗る男だけあって、その手腕は素晴らしい物だった。


 「は? 金貨1000枚ですって!?」


 これに反応したのは、今まで静観していたレベッカだ。

 金貨50枚でもかなりの金額なのに、それが1000枚。

 これはもはや、小さな町を作ることすらできる金額だった。

 

 「あぁ、そうだが。どうした、慌てて」


 レベッカは、分かりやすく動揺していた。

 それだけでなく、強い嫉妬にも煽られていた。


 「なんでその依頼を、私達に受けさせなかったの!? 私達では、不満だったわけ?! それとも、私達を揶揄う為に嘘をついてるの!?」


 「はぁ、ったく。これだから、自意識過剰な勇者様達は。ハッキリ言っとくぞ。この依頼は、他の誰でも無い俺にしかこなせない依頼だ。勇者だろうが国王だろうが、この依頼はこなせないな。それに、疑うわなら証拠を出してやるよ」


 ギルドマスターは、机の上に金貨1000枚をわざとらしく音を立てさせながら出した。

 確かに、勇者達の物言いは酷く、実績が殆どないにも関わらず、吠えることしかできていないのだが『そんな事までしなくてもいいのに、まるで子供ね』と、隣にいた秘書は、口元を手で隠し微笑んでいた。

 

 ギルドマスターも、彼等も侮辱して虐めたいわけではない。 

 彼等を見て、流石にこのままでは、今回の勇者は見るに耐えない状態になってしまうと思い、ギルドマスターが鞭を入れている(ストレス発散)だけなのだ。

 確かに、やる事、言う事は厳しいが、実際は勇者だけでなく、アシエル達も外に出れば、無事に帰ってこられるか。と、心配するほど、心優しいのだ。

 が、勇者だけでなく、アシエルもそんな事を思われてると気が付いておらず、ただの意地悪なおっさんとしか見てない。

 アシエルに関しては、上手い事、騙されて無理難題を吹っかけられている事が多いので、そう思ってしまうのは仕方がない事だ。


 「っく。もう良いわよ!! 私達が魔王を倒したら、見てらっしゃい。貴方のとこの、冒険者の依頼がなくなるまで、モンスターを倒しに戻ってあげるわ」


 「おぉ! そりゃあ良いな! そしたら、うちの冒険者は楽して採取できるようになるな。頼むぜ勇者様一行よ、しっかりと魔王を倒してこい」


 もちろん、嘘である。

 そんな事されたら、ギルドの必要性が無くなり、必然的に冒険者達の仕事は無くなってしまう。

 しかし、はなっからこの勇者達に魔王を倒せるとは、全く思っておらず、せめて腐らないようにと、煽ったまでだ。


 「もういい。ローレン、さっさと、この街から出るよ。こんなとこに居たら、また嫌味を言われるわ」


 「あぁ、そうだな。それじゃあ、僕達は次の街に行くから、魔王を倒したら、また会いに来るよ」


 そう言って、勇者一行はギルドを出て行った。


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