新しい船
「はぁ!? もう終わっただと!? おい、飲み直したいから嘘ついてるとかじゃないよな」
「あったりまえだろ! 流石に国の依頼で嘘はつかねーよ」
「ん〜〜 まぁ、そりゃそうか。それじゃあ、依頼にあった剣を見せてもらおうか」
アシエルは、玩具入れと書かれた魔法の袋から剣を取り出し、机に置いた。
「こ、これは!!」
ギルドマスターは、恐る恐る机に置かれた剣を持ち構えた。
「しょぼいな。本当に、これしかなかったのか」
「あぁ、探知も使ったが、その剣しかなかったな。これ見よがしに台座に刺さっていたから、間違い無いと思うぞ」
「まぁ、お前のことだ。くだらん嘘はつかんだろうな。んじゃ、依頼は完了だ。これが今回の報酬だ」
ギルドマスターは、机の上に金貨1000枚入った袋を出した。
「おぉ、今日だけで金貨1500枚か! 美味しい仕事だったな」
「はぁ…… それは、お前だからだ。まぁいい。これからが本題だ」
「は!? まだあるのかよ!」
アシエルは憤慨しながら、金貨を必要経費と書かれた魔法バックに入れようとすると、ギルドマスターが止めた。
「実は交渉をしたい」
「交渉だ? それは、この金貨1000枚よりも価値がある話なんだろうな?」
アシエルは表情を変え、いつものふざけた顔では無く、目を細め強く睨む様にギルドマスターを見つめた。
この動作に特に意味は無く、アシエルの十八番だ。
「あぁ、そうだ。これは、お互いにメリットがあるから、騙そうと思ってない。今まで、色々騙して依頼を受けさせたが、今回は安心しろ。でだ、これが俺からの提案だ。この船を、金貨1000枚でお前にやる。もちろん、国からの許可もとった」
5枚の紙に描かれていた船は、とても豪華な船だった。
今の船より一回り大きく、まず船員達の部屋が豪華だった。
今は、2人で一部屋だが、この船は1人一部屋でも余るぐらい船室があった。
トイレにお風呂、そしてキッチンまであると言う、豪華客船顔負けの設備だった。
そして、船長室も一回り大きく他の部屋と同様の設備にさらに、船員全員が座れる程大きいテーブルが備わっていた。
「おいおいおいおい!! マジかよ!! 国のお偉いさんもいいって言ったのか!?」
「あぁ、そうだ。まぁ、俺が勇者達のなる船は豪華じゃ無いとダメでしょって言ったら、二つ返事だっだぞ」
「わかった。これにする。金貨全てやるから、この船をくれ」
「よっしゃ。だが、一つ条件があるんだ」
こちらも十八番の様に、アシエルが了承した後に問題を打ち上げた。
「ん? なんだよ」
「勇者達の部屋だがな」
ギルドマスターは、さらに一枚紙を取り出した。
それは、船員達の様な部屋では無く、一つの小屋だった。
同じ様な設備を設置されているが、違うのは場所だった。
「なんだこれ。船首の近くにこんな小屋を立てて、そこに勇者達が乗るのか? あいつら死ぬんじゃ無いか?」
「あぁ、その為に作らせた」
ギルドマスターは、曇りなき目でアシエルを見つめた。
「と、言うのは冗談だ」
「当たり前だろ!! 軽く殴るとこだったぞ!」
「お前に殴られたら、軽くでも死んじまうよ。実はな、俺が、勇者は1番目立つ、船員とは離れた場所がいいんじゃ無いか? って進めたらよ。俺としては、ブリッジの1番ケツにする予定だったんだがよ、国のお偉いさんは、何をとち狂ったのか、船首にするなんて言い出しやがって。もちろん、断ったぞ? そこが1番危険だってな。何よりダサいし。だが、全く話を聞かずにこのまま作りやがったんだよ」
ギルドマスターは、呆れた様にため息を吐いた。
国が使えない勇者を殺す為に、ここにしたのかと思うほど、呆れた提案だった為だ。
「それはまた、不運な勇者達だな。まぁあいつらに倒せない雑魚は、俺達が秘密裏に討伐するから、死ぬことは無いけどよ。それでも、これは流石に可哀想だな」
「俺もそう思うな。モンスターが飛び出して来たら、真っ先に攻撃されるのがあいつらだからな。まぁ、それが勇者としては1番正しい行動なのかも知れないがな」
「確かにな〜〜 ただ、今回の勇者達は、レベル低いくせに、モンスターと戦わずに、転移使って移動するぐらいだぜ? 先が思いやられるぞ」
「はぁ…… 全くだな。ま、それでどうする。俺としては、どっちでもいいが」
「はぁ? 貰うに決まってるだろ。金貨1000枚もする船には見えないが、めんどくさいのがお国の連中だからな」
そう。アシエル達は、これぐらいの船はいつでも買う事ができた。
なぜなら、必要経費と書かれた魔法の袋には、国家予算並みの金貨が入っているからだ。
だが、勇者達より目立つ船は論外だ。と、言う事で、船を購入する許可が降りなかった。
それが今回は、勇者を悲惨な目に合わせる代わりに、この船にしてやると言う、アシエル達には殆どデメリットが無いのだ。
「そんで? その船は、どこにあるんだ。早く見せるんだ」
アシエルはギルドマスターに段々と顔を近づけた。
その顔は、欲望に染まりまくった笑顔をしていた。
「わ、分かったから。着いてこい。後、頼むぞ」
「はい。分かりました」
ギルドマスターとアシエルは、アシエルの船が止まっている、街の反対にある船着場へと向かった。
そこは、先ほどとは違い貴族達がこれ見よがしにブランドを身につけ、街を闊歩していた。
「ははぁ〜 相変わらずだなここも。嫌な記憶が蘇る」
「ガッハッハ!! お前はあいつらにとことんいじめられたからな」
「うるせぇよ。それで! 俺の船はどれだ!!」
「まぁ、そう焦るなって。もう直ぐで見えてくるぞ」
アシエルはワクワクしながら、船着場へと着くと、一目でどの船かわかった。
その船の船首には、勇者一行と書かれた小屋があったからだ。
そこだけは、だいぶ残念な姿になってしまっているが、他はアシエルの期待通りの船だった。
「スッゲェな! これはスゲェぞ! 俺達が乗っているボロボロの船とは大違いだな!! これなら、船にヒールかける必要はねぇな!」
「お前、船にヒールかけて、海の上を走ってるのか。イカれてるな。お前の船に乗らなくて正解だったな」
「うるっさい! これもお国様が許してくれなかったせいだ。文句ならあいつらに言ってくれよ」
「まぁ、気が向いたらな」
こうして、アシエル達は新しい船を手に入れる事ができた。
この船ならば、自分の魔法に耐える事ができるであろうと、ワクワクしていたが、半年後にはヒールがないと走れない船になっていた。