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勇者専用の依頼


 「ふぅ、ようやくマルハバに着いた」


 勇者ローレンは崩れるかの様に、地面に手をついた。

 

 「仕方がないですよ。この距離の転移は魔力が多く必要ですからね」


 僧侶のニールは、ローレンを優しく起こした。


 「ありがとう。それじゃあ、ギルドに行こうか」


 「ちょっと待って!! ギルドに3人で行く必要ないじゃん! 私、新しい服が欲しいんだけど!」


 魔法使いのレベッカは、地団駄を踏みながら、文句を垂れている。

 

「そんなこと言われても、前回の依頼に失敗して、そんなに残ってないよ」


 勇者は魔法の袋から、金貨2枚を取り出した。


 「えーー! もう、それだけしかないの!?」


 レベッカは、諦めるかの様に地面に座り込んだ。

 

 「元はと言えば、あなたが建物を壊したのが問題なのですよ」


 「五月蝿いわね。僧侶の癖に!!」


 「な! あなたが、あんな密集した場所で、ファイアーボールなんて唱えるから!」


 「よさないか、2人とも。元はと言えば、僕のレベルが低いのが原因なんだ。とりあえず疲れたし、街に入ろうか」


 ローレンは、2人を宥め、街にあるギルドへ向かった。

 

 「良いなぁ〜あの子。最近流行りのローブ買ってる」


 レベッカの視線の先には、身長が140センチほどの少女が楽しそうに服を買っていた。

 

 「お金持ちの子供かしら。羨ましいな、貴族様達は。私達が、これだけ苦労してモンスターを倒してるのに、税金で働かずに生きて行けるんですもの」


 「まぁまぁ、貴族達は貴族達で、僕らにできない仕事をしているんだ。それに、魔王を倒せば、この世界ではお金を使わずに遊んで暮らせるんだ。今だけの我慢だよ」


 「ふん! 今にみてなさい。あの少女よりも良い服いっぱい買って、これ見よがしに見せつけてやるんだから」


 レベッカは、捻くれていた。

 ワガママ自己中めんどくさがり。と、勇者パーティの紅一点なのに、民衆からの人気はあまりない、可哀想な女性だった。


 「そうだね」


 ローレンは、レベッカに疲れているのか、転移に疲れたのか、相槌だけうち、ギルドへと向かった。


 「さぁ、ギルドだ。皆準備いいか」


 勇者は身なりを整えて、ギルドの戸を開けた。


 「おぉ!!! 勇者一行じゃないか!!」


 「きゃーー ローレン様!! 私と握手してください!」


 ローレンは、右手を上げながら、堂々と歩いた。


 「握手だけでいいのかい?」


 ローレンは、握手を求めた女性に優しくハグをした。

 

 「あぁ、ローレン様。私、どうかなっちゃいそうです」


 予想外のハグに、女性は気を失いそうになっていた。


 勇者ローレンの目と、下腹部はいつも以上に光り輝いていた。

 彼は、典型的なナルシストだった。

 パーティでは、1番の足手纏いだが、世間ではパーティのリーダーで、誰よりも目立ち、輝いていた。

 レベッカとニールは、ローレンが勇者としての演技をしていると思っている為、何も言わずにタダ見ていた。

 

 「それで、有名人で、目立ちがり屋の勇者様はギルドに何用かな」


 棘のある言い方をしているのは、ここのギルドマスターだ。

 彼は、何十人もの勇者を見て来た為、本物か偽物かを判断することができる。

 そして、判断をした結果が、この対応だ。


 「これは、これは。ここの1番お偉いさんのギルドマスター直々にお出迎えとは。良い心がけですね」


 嫌味っぽく言い返したのは、僧侶のニールだ。

 彼は、身体を回復させるのも得意だが、相手の精神を壊すことも得意だった。


 「言うじゃないか、足元しか見えない僧侶が」


 ここで言う足元とは、自分よりもレベルが低い人のことを指す。

 ちなみにレベッカは、意外と空気が読め何も言わずに傍観している。

 実際は、争うのすら面倒くさいだけなのだが。


 「前置きはいい。なんのようだ」


 ギルドマスターは、威圧的に勇者達を見た。


 「新しく依頼を受けに来たんだ」


 ギルド職員はギルドマスターの威圧に怯えているが、ローレンは顔色一つ変えることはなかった。

 それは、レベル差がありすぎて、それすらも気づいていない為だ。

 

 「ちっ。勇者の依頼はそこだ」


 ギルドマスターは、勇者専用と書かれた掲示板を指差した。


 「ありがとう。この依頼は僕達にしかこなせないからね。じゃあ、Sランクの討伐依頼を受けるよ」


 ローレンは一枚の紙切れを掲示板から、カッコよく引き剥がしギルドを出て行った。

 実はこの依頼、難易度最低ランクのEランクの依頼なのはギルドマスターと一部の職員しか知らず、大袈裟に書かれてはいるが、低ランクモンスターの討伐だった。


 「ふぅ、ようやく出て行ったか」


 「あれが、今年の勇者ですか」


 彼女は詳細を知っている、ギルドマスターの秘書である。


 「あぁ、そうだ。ったく、最近の勇者はどうなってんだ。それで、あいつは何してる」


 「彼は今、酒場でどんちゃん騒ぎをしているそうです」


 「あいつもあいつで…… はぁ…… とりあえず、呼んできてくれ」


 「分かりました」


 秘書は、引き出しから一枚の依頼書を取り出し、酒場へ向かった。



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