68 ヤマト破壊計画
【登場人物】
中臣鎌足(カマ様)
人間に転生した天魔の神『天狐』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。
額田姫王・鏡王女
中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う少女。
琵琶湖の龍王女の転生体である。
葛城皇子(中大兄皇子)
女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。
額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。
チビコマチ(小野小町)
額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。
巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。
厳 (ゴン)
春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。
なぜかチビコマチのお供をしている
鈴鹿御前(倭姫王)
天照大神の依代であり第六天魔王の一人。
なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。
ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。
小狐丸
黒い戦闘魔獣。
魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。
お玉(玉藻)
百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。
幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。
【年表】
◼ 637年武照、太宗の後宮に入る
◼ ︎643年。山背大兄王死去
中臣真人(藤原チカタ)誕生
◼ ︎645年。蘇我入鹿暗殺
◼ 653年。第二次遣唐使。道昭とチカタ(定恵)入唐
◼ 654年
・中大兄皇子 飛鳥に戻る
・孝徳天皇崩御(654年 - 10月)
◼ 655年 1月、寶皇女が即位(斉明天皇)
武照は一気に爵をあおって酒を飲み干した
「飲み過ぎですよジャオ様」
地獄の井戸から王が現れる。
ジャオは「フン!」と鼻で笑った。
「まだ赤子の皇女様がおられるでしょうに」
「あの赤子は「王皇后」を罠に陥入れるために作った泥人形だ」
この年、655年。
唐の皇后である「王皇后」が媚蠱を行いジャオの娘を呪い殺したのだと皇帝に疑われて、王皇后は宮廷から追い出されてしまっていた。
全てジャオの策略どおりだ。
「まったく、ひどいお方ですねぇ」
王は勝手に酒の準備を始める。
「ところで私が立てた『邪馬台破壊計画』の進捗状況はどうなっている?」
「作戦の名前は残念ですが、それ以外は良好ですよ、今のところは」
「それで、アイツの様子は?」
「倭姫ですか?彼女はまだ子どもですよ。考え過ぎでしょう」
「油断はするな。よもやまたあの女に裏をかかれたりはすまいな」
「今回は一計を案じて、中大兄皇子を仲間に引き入れてあります」
「何っ!魔王をか?」
まさか敵のボスキャラを味方に使うとは、さすがの武照も驚いた。
「ええ、意外とあっさり我らの案を受け入れてくれました」
「いやまて、魔王の事だ何か裏があるはずだ」
「たとえ作戦を阻止したとしても、一旦『アレ』が動き始めれば、たとえ魔王でも止められないはずですが」
「絶対。ではあるまい」
「ふむ…」王は手を止めて少し考える。
「分かりました。もう少し用心しますか」
王は地獄の井戸を開いて足を踏み入れた。
「ちょっと待て、孫はどうした?」
王は少し間を置いて振り向く
「…やられました。孫行者はじきに死ぬでしょう」
「孫を倒しただと!魔王がやったのか?」
「いえ、以前申し上げた獣神の転生体です」
「その獣神を転生させたは魔王の指図か?」
「……おそらくは倭姫の…」
「バカ者が!」
武照は酒の入った金属製の爵を投げ付ける。
王の額から血が流れた。
王はゆっくりと畏まる。
「相手の戦力を見誤りました。ヤツらは個々では弱くても共闘する事で補い合い、戦闘力を倍増させてきます」
「理屈はもうよい!その獣神をさっさと始末しろ」
武照の目が赤く光って燃え上がった。
「ヤツは私が倒します」王が決意を固めるかのようにつぶやいた。
「今度こそはあの女の鼻をあかしてやれ!良いな!」
「……はい」
王は再び地獄の井戸の闇に消えた。
武照はドスン!と背もたれに倒れ込んだ。
「クソっ!忌々(いまいま)しい卑弥呼のヤツめ…」
白い霧の中をカラス天狗が黒コゲの孫少年を背負い、険しい岩山を登ってていた。
カラス天狗は善鬼坊である。
善鬼坊の一本歯の高下駄は白く険しい山を滑らかに駆け上る。
その後をチカタと天狗の面を着けた小野忠明が飛ぶようについて登る。
足元の岩や砂は宝石のような寒水石だった。
※ 寒水石:白大理石
周囲は霧で何も見えない。上も下も真っ白にホワイトアウトした世界だ。
かすかに水音が聞こえる。湧水があるようだ。
チカタたちは孫少年を湧水池の手前に降ろす。
「どこだ…」黒焦げの孫少年が力無く言葉をもらす。
「蓬莱だよ。生と死が重なる神界だよ」
チカタは真っ直ぐな目で答える。
蓬莱とは仙人が住まうと言われる不老不死の神仙界だ。
言われてみれば空気は清浄で、わずかに甘い。霧を吸い込むと呼吸が少し楽になってくる。
たしかに長命な天魔たちのエネルギーの素になる神界の水だ。
水音が心地よい音楽のように聞こえてきた。泉があるようだ。
「この泉の中に入れば回復するよ」
「…なぜ…神界を…知っている」
「未来でボクはここに居たから」
そう言うとチカタたちは孫少年を光る池の中に投げ込んだ。
透明で薄く黄金色に輝く水に沈んで行く。不思議と息ができる。
孫少年はゆっくり目を閉じた。
香具山
中皇命こと間人皇女の一行は各地の寺社を周りながら飛鳥に向かう。
しかし中皇命を迎える飛鳥の人々の目は冷たく澱んでいた。
香具山に差し掛かると一段と人夫の人数が増え、人であふれている。
香久山の西から、布留の石上山に至る。
あの巨大水路の終着点が、この香具山である。
ここからさらに奥の『多武嶺』まで石を運ぶと聞いてカマタリはのけぞった。
「多武嶺って…中臣の霊山じゃねーか!」
フツノミタマを祀っている石上山からの大量の石を多武嶺に運ぶというのか。
何のために?
間人皇女の一行は板蓋宮の前にある飛鳥寺に到着する。
間人皇女の母親である寶皇女に皇位を受け渡すまでここに宿泊する予定だ。
以前の皇居だった板蓋宮はすぐそこなのだが……その宮殿は先日カマタリと王たちの戦いで燃えてしまった。
今はその奥の岡本に仮宮を移し、皇祖母尊と中大兄皇子は、そこにいると聞く。(※現代では後飛鳥岡本宮と呼ばれる)
飛鳥寺に入ると、派手な唐服姿の美女が侍女を従えて(こし)から降りているのが見えた。
「ん?あれは…」
美女もカマタリを見つけてギクりと立ち止まった。タマモが化けた百済の王太子妃である。
「おい、お前が何でここに居るんだよ」
タマモは目線をそらしながら答えた。
「魔王に呼ばれたのだわ」
「中大兄皇子に?何で?」
「知らないわよ」
タマモはそそくさと立ち去る。
カマタリは石運びの人夫たちを追いかけるように多武嶺に向かう。
すると途中に饅頭のような巨大な石が置かれているのが見えた。
「何じゃこりゃ?」
モニュメントにしては雑な作りだ。
よく見るとカエルか亀か動物のように見える。何かの目印だろうか?
さらに歩くとまた謎の巨石の庭園のようなものが見えた。
「これは…」
カマタリは前方の多武嶺を見上げ、後ろの亀石を振り返る。
その彼方に高くそびえ立つ山容が見えた。
「葛城山…」
多武嶺の麓に近づくと山頂に白く輝くピラミッドのような建造物が見えて来た。
「あれは…?」
山頂の木は切り倒され、古墳のように石が積まれていた。
何かの巨大な塔のようにもみえる。
麓では百姓たちが集まり牛や鹿を屠殺し、肉を焼いていた。
横には大量の動物の首が並び、顔に布で覆面をした神官たちがその首を頭の上に乗せて山道に入って行く。
燔祀の儀式のようだ。
(※ 燔祀:動物の霊や肉を生贄にして神の食事に献る儀式)
その奥で覆面をした白いヒゲの神官の一人が、こっそりとお供えものの神饌をつまみ食いしているのを見つけた。
「神官が御食に手を付けちゃダメだろ…御食に…いや、あれは」
「父上!なぜこんな所に」
白ヒゲ神官が飛び上がった。
中臣御食子だ。
しかし名前が御食子なのに御食に手を付けるとは困った爺さんである。
「おおっ!お前は…え〜と」
「カマタリです」
「そうじゃ息子よ、なぜワシだと分かったのじゃ!」
「分かりますよそりゃ…で今日は何ごとです?」
「あれを造成するために中臣の霊場を切り拓いたのでな、ご神山に座される山の神々の霊を鎮める儀式をしておったのじゃ」
「父上あの建物は何です?」
「『観』じゃ。カンを建てるらしい」
「カン?」
「唐の寺院らしいな」
(※)道観:道教寺院
「ホントですか?河内の道教寺院とはずいぶん違いますけど、何に使うんでしょ?」
「なんでも、とびきりの美女を、あそこに集めると聞いたな」
「顔キラキラの?」
「さよう、顔キラキラの美女を八人じゃ」
「八人も?なんで?」
「そんなもんワシも知らん」
何か妙な計画が進められているようだ。
カマタリは山頂の石積みの塔を見上げた。
〜 68 ヤマト破壊計画 〜完
(=φωφ=)あとがき。
ヤマト破壊計画っ!
なんかガミラスみたいな作戦ですねえ。
> 蓬莱
海の彼方にある神界、常世であると言われます。
死んだ大国主が黄泉がえりパワーアップした場所、根之堅洲國でしょうか。




