表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/63

61 遣唐使 真人(まひと)

【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)・鏡王女

中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う少女。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。

なぜかチビコマチのお供をしている


 鈴鹿御前(倭姫王)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。


 小狐丸

黒い戦闘魔獣。

魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。


 お玉(玉藻)

百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。

幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。


 「あの武照(ウー・ジャオ)が再び宮廷に戻って来た!」…という噂は唐の宮廷中に鳴り響いた。


 この武照(ウー・ジャオ)の後宮入りは皇后である王皇后よりの特例であった。

なぜならば最近の後宮では高宗帝の寵愛を受けている蕭淑妃が権勢をふるい始めたため、王皇后が「別な女」を近づけて高宗を蕭淑妃から引き離そうという作戦のようだ。

 身分が低く出戻りの武照(ウー・ジャオ)なら自分の支配下に置けるだろうと王皇后は考えたのだろうか。


 さて、その武照(ウー・ジャオ)はさっそく女官を引き連れ後宮を好き勝手に歩き回っている。

 武照(ウー・ジャオ)の年齢は三十歳手前のはずだが、見た目はまるで少女のような若々しさで、利発そうな愛らしく大きな瞳がよく動いていた。

 広大な後宮の敷地ですれ違う宦官や宮女までがその美しさに思わず振り返った。


(ワン)!これ(ワン)!いずこにおる!」


「ここに居ますよジャオ様」


宦官(かんがん)姿(コスプレ)もなかなか似合うぞ(ワン)。さすが自分で切り落としただけはあるな!」

ジャオは(ワン)の股間をポンポン叩くが、(ワン)は無表情に答える。


「ジャオ様が『切れ』と命令したのではありませんか」


「どうせもう復元させたのであろう。確かめてやる!」

ジャオは鼻で笑うと(ワン)の長衣をめくり上げて下の袴の中に手を潜り込ませる。


「ここは後宮ですよジャオ様……うっ…」


「ウヒヒヒやはりこっそり回復させよって、コヤツめ」

ジャオはルンルンと(ワン)の股間をつかんで激しく動かし始めた。


 高空の雲の上では、その様子を(ソン)少年が呆れ顔でのぞいていた。

「ばっ…かじゃねーか」

いい天気である。


 そのころ日本は白雉2年(650年)

ようやく難波宮の内裏(だいり)が完成した。


 新たな都市計画によって造られた大内裏(だいだいり)は壮大な草葺きの朱雀門を構え、門の左右には二階建ての巨大な八角堂がそびえ立ち、大夫(だいぶ)や官僚たちの働く官庁街の朝堂(ちょうどう)は十四棟もある。

 良くも悪くも軽大王の新しもの好きで学問好きで見栄っ張りな夢の王都である。

 それに…左大臣の阿倍内麻呂(あべのうちのまろ)が描いた難波を未来の国際都市にすると考えるならば規模は大きなほど良い気はする。


「山、高きを(いと)わず。海、深きを(いと)わずか。ちょっとやり過ぎな気もするけど、将来を拡張性を考えるのならこれでもイイんじゃないかな」

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)とチカタくん九歳を連れて、新しい都をぶらぶら歩きながらカマタリはつぶやいた。


 ※ (山、高きを厭わず:曹操「短歌行」優秀な人材はいくらでも受け入れてやるという詩)


「こんなのダメよお、大きいばかりじゃ(みやこ)としての風情が無いわ」

カマタリのつぶやきを額田姫王(ぬかたのひめみこ)は速攻で全否定する。


「?風情ですか?」


「いいこと、新しくて大き過ぎるとケバさが目立って場の気色(けしき)が乱れるのよ。時間をかけて風景が熟成されて味が染み出てワビサビになるのよ。おわかり?」


「ワビサビねえ…」

 さすがレジェンド歌人の芸術センスである。

だが!飛鳥時代に()()びの概念など無いのでカマタリが理解できるはずも無い。

もっともカマタリに()()びなど理解はできないだろう事は確かだが。


 カマタリも自分の家族を連れて斑鳩の中臣の屋敷から難波に越して来たが、早くも額田姫王(ぬかたのひめみこ)はブーブー言っている。

「もうやだあ!大和がい〜い!三輪山が見たい!」

「まだ三日目ですよ(かがみ)さん」


 ちなみに鏡姫(かがみひめ)とは額田姫王(ぬかたのひめみこ)の事だが「カガ」とは蛇を意味する。

(カガミ)とは「蛇眼(カガメ)」つまりオロチの瞳を意味する。

 つまり龍王女の事である。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)はさっそく説教を始める。

「あのねえキミ、大和(やまと)は 国のまほろば たたなづく 青垣 山隠(ごも)れる 倭しうるわし※…って言ってね、大和はこうモコモコっと山にくるまれてるから歌になるのよ。両側が海と平野でこんなにパカーンって開けてちゃ歌にならないのっ!」


※ 「大和(やまと)は 国のまほろば〜」:ヤマトタケルが死の間際に詠んだ詩。


「でも鹿島もこんな感じだよ?東は果てしない大海から陽が昇ってさ、西には香取の海があってさ、天然の要塞って感じでカッコイイじゃん」


「ダサっ!(みやび)さが無い!何にも無い!ナンセンスだわ!」


 そんなことを言われても…と言いかけてやめた。


「だけど難波はさ、異人も多いし学問も盛んだしさ、チカタ君の勉強にもいいんじゃないかな。なあ」

チカタはうなずいた。


「え、そう?チカタがいいのならそうするわ」


「早っ!」


「父上、お願いがあります」

「うわっ!びっくりした!」

いきなりチカタに話かけられてカマタリが飛び上がって驚いた。いや額田姫王(ぬかたのひめみこ)も目を丸くして驚いたいる。


 チカタがしゃべるのは珍しい。

中臣御食子(なかとみのみけこ)の話では、チカタは言霊が強すぎて幼児にはセーブできないため、あえて自分からはしゃべらなかったのだろうとの話だ。

 (そういえば、あの魔王葛城皇子まで一言で追い返してたな)

 それが今では自由に言霊のパワーをコントロールできるレベルにまでに成長したという事なのだろう。

この子にはいったいどれほどの魔力があるのだろうか?


「父上のお力で私を遣唐使船に乗せてください」

いきなりチカタはトンデモない事を言い出す。


「え!?それは無理でしょうチカタくん」


「出家して留学僧となれば年少者でも唐に留学できると聞きました」


「出家なんてトンデモない!ダメです!いけません!ママは許しませんよ!」

額田姫王(ぬかたのひめみこ)がチカタに言い聞かせる。


 誰がママやねんとツッコミたいのを抑えつつカマタリはチカタに向き合う。


「なあチカタくん。唐に行きたい理由は何だい?」


チカタは黙った。

カマタリも黙ってジッと見つめる。


(ひつじ)さんに会うつもりなんじゃないかい?」

今度はチカタが驚いた。カマタリはチカタの考えを全部わかっていたのだ。


(ひつじ)さんに会ってどうするつもりかな?」


「神仙術を学んで参ります」


「そうか…(ひつじ)さんならきっと良く教えてくれるよ」


 チカタはうなずいた。

あれほど激しく戦った敵を今でもカマタリは以前と同じ尊敬する友人として見ていたのだ。


「私は父上の子である事を誇りに思います」


「そう?ありがとう、チカタくん」


「ちょっとお!私の許可無く勝手に決めないでくれる?」


 海外に関してはカマタリは素人だ。

河内の「船」たちの居る町に向かう。

町の中央に行灯が輝くひときわコテコテな大きな建物が見えてきた。

「あれが道院というものか…」


 道院の中には年老いた道士が偃月刀(えんげつとう)のような物を持った神像に(あかり)を供えている。


 その神像を見てカマタリは固まった。

いやこれは薙刀ではない。よく見ると月牙鏟(げつがさん)である。

「この像は…まさか天蓬元帥(てんほうげんすい)!」


 老人が語りかけてきた。

「さようです。天界の紫微宮(北極星)を守護する軍神、天蓬元帥(てんほうげんすい)でございます」


「あ、いえ、ちょっと知り合いに似ていたので驚いたんですハハハ」

カマタリはメチャクチャな言い訳でゴマカし笑いをする。


 老道士はチカタの方に近づいた。

「ほう、この子は…」


「何ですか?」


「このお子の名は?」


「チカタです。中臣(なかつおみ)千方(チカタ)


うむ…と老道士は唸った。

「なるほど賢聖と鬼神、二つの相を持っておるようですな」


「賢聖と鬼神?」

カマタリはその言葉にギクリとした。


「このお子は、すでに真人(まひと)となっておられる」


真人(まひと)とは何ですそれは?」


「神仙の事です」


「あ…」


「この子は早く修行の道に行かれるのが良いでしょう。それがこの子のためでございます」


「そうか…そうだな。ご老人、この子に合った寺院をご存知ないですか?」


「それならばこの村の出身で遣唐使の留学僧に選ばれた道昭(どうしょう)がおります。その者に預けてはいかがでしょう」


「遣唐使の留学僧!どんな人なんです?」


高志才智(こしのさいち)様の弟子だった者ですよ、中臣鎌足さま」

老道士はのぞき込むように言ってニヤリと笑った。


 カマタリは驚きながら微笑んだ。

(ひつじ)さんの命令かい」


 老人は首を振った。

「それもありますが、少し違います『南嶽慧思後身(なんがくえしごしん)』をご存知でしょうか」


「?な、南嶽?」


「昔の高僧『慧思(えし)』がこの倭国の王子に転生したという伝説ですよ」


「王子?」


厩戸皇子(うまやどのみこ)様の事です」


 『南嶽慧思後身説』

中国天台宗の開祖「慧思(えし)」は三百年後に倭国の王子に生まれ変わると信じられてきた。日本ではそれは聖徳太子の事だと言われる。


「末法の世が終わる時代、弥勒(ミロク)がこの世に下生する。その時に慧思(えし)も神仙となり再び現れるのです」


(弥勒:第四天という神界にて法を説く菩薩。五十六億年後に人間界に転生し世界を救うと言われる)


「世界を救うために転生し続ける高僧か…」

カマタリはふと山背大兄王を思い出した。


 老道士はチカタに向かって手を組み拱手(きょうしゅ)の礼をした。

「そのお子様は真人(まひと) でございます。以後中臣真人(なかとみのまひと) と名乗られ、仏の法を学び、老子の道を修め、正しい神仙の道に入られるのがよろしいでしょう」


中臣真人(なかとみのまひと) …」


 チカタは中臣真人(なかとみのまひと) と名を改めて、道昭(どうしょう)に連れら飛鳥寺で出家した。

 法名は定恵(じょうえ)となる。


 翌年653年 白雉4年

草香江(くさがえ)』の港にはカラフルな(ノボリ)をはためかせた巨大な船が並んでいた。

 第二次遣唐使船である。

吉士長丹を大使とした第1船に道昭(どうしょう)定恵(じょうえ)を乗せて船団は出発した。

 船上に僧形のチカタの姿が見える。

まだ九歳の少年はひときわ小さく見えた。


 カマタリも額田姫王(ぬかたのひめみこ)中臣御食子(なかとみのみけこ)と共にチカタの乗る船を見送った。


「あの子、私が居なくて大丈夫かしら」

額田姫王(ぬかたのひめみこ)が不安そうに言う。

「だいじょぶだよ。俺の子だもん」

「ちょっとキミ!不吉な事言わないでよ!」

「なんでやねん!」


カマタリもだいぶ難波のボケ・ツッコミになじんで来たようだ。


「ちょっと私も唐に行こうかしら」と言うなり額田姫王(ぬかたのひめみこ)は地獄の井戸の言霊を詠みはじめる。

 秋山の〜木の葉を見ては黄葉(もみ)つをば〜

「ちょーっ!やめなさいって!!」


 船上ではチカタはいつもの二人を見て安心したかのように微笑みながら合掌した。


 そのころ唐では、いつの間にか武照(ウー・ジャオ)が皇帝の子を妊娠し、いつの間にか出産したと言われる。



 〜 61 遣唐使 真人 〜完


  【年表】

◼ 629年 道昭(どうしょう)誕生

629年 玄奘、インドへ出発。

◼ 637年武照、太宗の後宮に入る

◼ 640年有馬皇子誕生

◼ ︎643年

  山背大兄王死去

  中臣真人(藤原チカタ)誕生

◼ ︎645年

  蘇我入鹿暗殺

  玄奘、シルクロードより帰還。

◼ 649年

 ・阿倍内麻呂死亡

 ・蘇我石川麻呂討たれる

 ・太宗皇帝が崩御。

 ・武照、道士となる。

◼ 650年。白雉元年

  武照、たまたま高宗に再会する。

◼ 652年。難波宮完成

◼ 653年 白雉4年 第二次遣唐使派遣。

  道昭(どうしょう)定恵(じょうえ)入唐



 (=φωφ=)あとがき。

だんだん年表が長くなってきました…。


 > 天台宗の開祖「慧思(えし)

鑑真さんがこの慧思(えし)の予言に傾倒してたらしく、日本に来るきっかけになったと言われます。

 あと当時の唐は『ある女帝』のせいで、だいぶ混乱していたみたいですね。


 > 中臣真人(なかとみのまひと)

中臣鎌足の長男ですね。

この人は遣唐使から帰ってすぐ亡くなってるのでよく分かりませんでした。

なのでチカタくんにしちゃいました(まて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ