58 魔道士襲来
【登場人物】
中臣鎌足(カマ様)
人間に転生した天魔の神『天狐』東国の獣神であり人間体でも魔物を圧倒できる身体能力を持つ。
額田姫王・鏡王女
中大兄皇子の元妻であり、神の歌「言霊」を使う少女。
琵琶湖の龍王女の転生体である。
葛城皇子(中大兄皇子)
女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。
額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。
チビコマチ(小野小町)
額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。
巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。
厳 (ゴン)
春日の森で「鬼神の塚」を守る片目の野守。
なぜかチビコマチのお供をしている
鈴鹿御前(倭姫王)
天照大神の依代であり第六天魔王の一人。
なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。
ちゃっかり自分も皇女に転生した。だがまだ子供である。
小狐丸
黒い戦闘魔獣。
魔物を斬る『神刀』を鍛える刀工でもある。
お玉(玉藻)
百済王妃に化けた九本尻尾の妖狐の少女。
幻覚を操り、人間を魔物化させる能力を持つ。
難波。
半島形の台地を挟んで西側は瀬戸内海。
東は河内湖という遠浅の湖だったと言われる。淀川と大和川の流れ込む広大な湿地帯が広がっていた。
その低地の奥に草香江という港が整備されていた。
高志才智は高台の崖に立ち瀬戸の海を見ていた。海風が強い。
カマタリは高志才智に声をかける。
「羊さん…なんで」
「高志才智!真犯人は犯人あなたね!」額田姫王が羊さんをビシっ!と指差す。
カマタリは高志才智に事情を聞こうとしただけだが、額田姫王とチカタくん六歳が勝手に付いてきてしまったのだ。
カマタリは頭を抱える。
「ちょっと鏡さん。話の途中なんですけど…」
「ニブイわねキミ。犯人は断崖絶壁にいるものなのよ。だから私の推理では真犯人は犯人あの人なのよ!」
「飛鳥時代に何言ってんすか」
カマタリも飛鳥時代に無いツッコミを入れるが、ここは後世に大阪と呼ばれる土地がらなので重要なのはボケツッコミのノリである。
高志才智は急に「ははは」と笑い出した。
「待っていたよ中臣鎌足」
「な…何を待っていたのです?」
「あなたも阿倍内麻呂と一緒に消すつもりだったが、運のいい男だ」
高志才智は独り言のようにつぶやいた。
「え?俺を消す?」
「あなたは我らの計画にとって邪魔なんだよ中臣鎌足」
「計画だって?」
「この港は軍港になる。百済のための港だ」
「百済の軍港…」
やはり高志才智は百済の工作員だったのか。
「なぜ左大臣さまを殺したんです」
「阿倍内麻呂は難波の軍事基地化計画に反対していた。あの男だけが我らの計画を見抜いていたからだ」
百済人が軍事計画をしている?
言われてみれば政府の高官に百済人や唐人は増えて来た。
しかし百済が日本の友好国であるとはいえ、政府官僚の中枢部に外国人が多数入り込んでいるのはやはり異常事態だ。
そう考えると日本国民の学力を上げようとしている軽大王(孝徳天皇)の方向性は正しいと言える。
「なるほど、勉強になったよ羊さん。一つ聞いていいかな」
「何かね。中臣鎌足」
「アンタに百済の間者のフリをさせている黒幕は誰だい?」
高志才智の顔色がわずかに変わった。
「わざわざ百済の名前を出していたのが怪し過ぎかな、羊さん。ホントに百済の間者なら百済の話は絶対言わないはずだろ」
「………」
「俺を生かしたのはワザとだ。この話を聞かせるためにね」
「そう!私の推理でもそこが怪しいと思っていたわ!」
額田姫王がビシっと指差す。
「ホントかな…」
「さあ!痛い目を見る前に依頼主の名前を言いなさい!腕づくで吐かせてあげるわ!」
額田姫王が袖まくりしながら近づいて行く。
「腕づくなのかよ…困った名探偵だな」
高志才智は暗く笑みを浮かべると懐からハラリと呪符を取り出した。
「その呪符は……まさか道士!」
唐土には道士という強力な魔術師が居るとタマモから聴いていたが、まさか高志才智本人が道士だったのか!
「なかなかの名推理だね。おかげで作戦を一からやり直しだよ中臣鎌足」
「ちょっとお!推理したのは私よ!」
怒った額田姫王が歌を詠唱する。
秋の野の み草刈り 葺き宿れりし
宇治の宮処の 仮廬し思ほゆ
『尾花刈り!』
疾風と共に風の刃が四方から飛ぶ。
だが高志才智は空中に呪符を投げると呪符は巨大な壁に変わり、風の刃を防いだ。
「防御魔法か!」
「やるじゃない。ならこれはどうかな!」額田姫王はノリノリで歌を詠唱する。
熟田津に
船乗りせむと 月待てば
潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな
『満ち潮!』
周囲一面に海が現れ、大波と渦潮が押し寄せて来た。
高志才智はパラリと呪符を空中に一枚浮かべるとその上に乗る。
その足元を波が通り過ぎた。
(全く無駄な技が無い。強いな)
先ほどの魔法防壁を空飛ぶ絨毯代わりに使ったのだろう。
額田姫王のような力押しではなく、状況に合わせて的確に応用させてくる。
てごわい相手だ。
「コラっ!降りて来なさい!」額田姫王は地上から偉そうに命令している。
高志才智は笑った。
「なかなか凄まじい威力だな鏡王女、ただの宮廷歌人だと思っていたが、まさか皇室直属の宮廷魔術師だったとはな。だがそこまでだ邪馬台の魔術師よ」
高志才智は空中に大量の呪符を投げ放つと火の玉となって額田姫王に襲いかかる。
『尾花刈り!』
額田姫王は空気カッターで火の玉の呪符を切り裂くが数が多すぎる。何発か至近弾が足元をかすめる。
マズイ!いくら額田姫王の言霊が強力でも発動スピードと数で負けている。
それに言霊を使うには言葉と呼吸が必要になるが、呪符は『文字』を使って複雑な魔法を織り込んである。
(なるほど、これが文字文化の利点か…)
感心しているカマタリを見て額田姫王が怒鳴る。
「ちょっとお!キミ、愛する美しくてかわいい妻のピンチを救うチャンスじゃないの!ボケ面してないで、サッサと助けなさい!!」
「なんで素直に助けてと言えないのかなあ」
カマタリは小狐丸の剣を鎌に変えてブーメランのように投げる。
鎌は素早くジグザグに飛び空中の呪符を切り裂いた。
「ほう、見慣れない武器をつかうんだね、中臣鎌足。しかし妻子まで巻き込むとは愚かな男だ」
「妻子ねえ…」カマタリは何か言いかけてやめた。
高志才智はカマタリの周囲に再び魔法防壁を展開する。
魔法防壁は四方からカマタリを閉じ込め圧迫しに来た。
「なるほど、鎌を防ぎながら圧殺する気か…」
敵ながら見事な作戦だ。
カマタリは小狐丸の鎌を剣に変えて振ると、剣は魔法防壁をスルリと切れた。
「おお〜スゲえ!さすが小狐丸」
「魔力を切ったのか…」
感心するカマタリをよそに高志才智は冷静に魔力の解析をしていた。
道士が呪符の『文字』に魔法を織り込めているように小狐丸の剣には強力な神力が封じ込められている。
これならスピードも互角だし威力は呪符以上だ。
「どうする羊さん。魔術のスピードが互角ならば、パワーの違いが決め手になる。勝ち目は無いぜ」
「そうよ!私に敵うと思ってるの!」
額田姫王がビシっと指差す。
(いやキミさっきまで…まぁいいや)
「戦を知らぬようだな中臣鎌足。戦いは数だよ」
高志才智の背後には黒い異空間が口を開き、中から無数の屍鬼が現れた。
日本の餓鬼と違って唐土(中国)の道服を着て呪符が貼り付いている。
「あれは餓鬼か!地獄の井戸まで使えるのか!」
餓鬼を使役して異空間トンネルまで自由に使える。
カマタリは高志才智が多数の能力を有してる事に驚愕した。
「この屍鬼たちはね、みんな生きてたころは名のある魔術師や剣士だった者たちだ。それらを私は使役できる。不死身の魔法兵士としてね」
不死身の魔法兵団。
そういえば玉藻は『武』という女性道士は死人を使役していたと言っていた。
これが唐国の魔道士の強さの秘密か。
屍鬼は火を噴き出した。
「熾燃餓鬼か!」
カマタリは飛び退きながら鎌を投げつければ、たちまち数匹が切り倒される。
屍鬼の一群が額田姫王に襲いかかって来た。
かからむと かねて知りせば 大御船
泊てし泊に 標結はましを
『標結』
額田姫王が言霊を詠唱すると光のリングのバリアに囲われ、屍鬼を防いだ。
「この名探偵の私にそんな雑魚の攻撃は通用しないわ!あなたも犯人らしく海に飛び込むか毒を飲んで死になさい!」
「ひどい名探偵だな」
バリアに張り付いていた屍鬼の手のひらが赤く光り、額田姫王のバリアに押し付けてくる。
バリアは激しく火花を散らし屍鬼の皮膚を爆させるが、不死身の屍鬼はかまわずさらに強く手を押し付けて来る。顔の肉は爆飛び目玉と頭蓋が露出した。
「うえっ!」
あまりの不気味さに額田姫王はドン引きする。
見ると、その頭蓋骨には呪符が刻印されていた。
「まさかこの屍鬼は魔法使い!」
「言っただろ、その屍鬼は不死身の魔法道士だよ。さて、その魔法防壁がどこまでもつかな」
高志才智は暗く笑った。
「こりゃヤバいかもしれんな」
カマタリが額田姫王を助けに向かうと、目の前に地獄の井戸が開き、中から違う人種の屍鬼が出てきた。
「どけっ!」
カマタリが斬りつけると屍鬼の身体がグニャリとゴムのようにしなり、口から緑の毒霧を吹き出す。
カマタリが激痛に一瞬顔をそむけると、長く伸びた手がカマタリの顔を殴り、思わずカマタリはよろめいた。
「腕が伸びた!?」
「幻人にそのような攻撃は効かないよ中臣鎌足」高志才智は笑った。
「幻人?」
幻人とは西域の胡人(ペルシャ人)の奇術師と考えられている。
幻人は奇術を使い、火を吹き薬で民衆を惑わせたと言われる。
幻人たちは口に手を差し込むとノドの奥から長い剣を抜き出した。
「何っ!」
「その剣には蠱毒が仕込んであるよ中臣鎌足。それに触れたら動けなくなり、切られたらあの世行きだよ」
目が激痛で霞む。毒霧の影響か。
高志才智はニヤリと黒い笑みを浮かべると、さらに多数の地獄の井戸が口を開け、中国の甲冑を身につけた屍鬼が次々と現れ、カマタリの周囲を取り囲む。
井戸の中からは無数の幻人と屍鬼剣士がさらに歩み出てくる。
「クソっ!」
獣身化すれば一気に蹴散らせるが毒霧を浴びて霞んだこの目では最高速度は出せない。時間がかかる。
そして手の内を明かしたら羊さんは必ず対抗策を出して来るはずだ。
獣身化は最後の一撃で使う…だが…
カマタリは痛む目でチラリと額田姫王の方を見た。
「きゃあ!」額田姫王の悲鳴が上がる。
『標結』のバリアの中に屍鬼の手が侵入し始めたのだ。
「しかたない。やるか…」カマタリは鎌を構えた。
その時、急に幻人の動きが止まった。
「何だ?」
高志才智が見回すと幻人の周囲を数匹の大きな猫が囲んでいる。 猫は尻尾が二股に分かれていた。
猫ににらまれた幻人たちは身動きが取れなくなってしまっているようだ。
高志才智が猫の魔力に気づいた。
「まさか貓鬼※」
※猫鬼:隋では、猫が最も強い呪力を持つとして猫の巫蠱が行われた。
するとカマタリの目の前の空間から黒い穴が開き、中から白い軍服を着た髪の長い若者が現れ、その背後からチビコマチとゴンが駆け出して来た。
「カマ様あ!」
「おチビちゃん、ゴンちゃん!」
人に逢はむ 月の無きには 思ひおきて
胸「はしり火」に 心焼けをり
『走り火!』
チビコマチの歌とともに無数の炎が四方に走り回り幻人を焼く。
ゴンはバリアに取り付いた屍鬼を引き剥がし、次々と投げ飛ばした。
「コマチ!」
「姫王さまあ」チビコマチが額田姫王に抱きつく。
「助かったぜ、おチビちゃん!ゴンちゃん」
ゴンは無言でうなずいた。
白い軍服の青年が歩きながら言霊を唱える。
「この子獅子の子、獅子の子、小獅子」
すると猫たちは小獅子に変わり、小獅子たちは瞳を赤く光らせて「ギャアア!」と叫ぶと弾丸のように幻人を切り裂く。屍鬼の群れはたちまちバラバラに吹き飛んだ。
「この子猫の子、猫の子、小猫」白い軍服の青年が再び言霊を唱えると小獅子たちは剣や盾で武装した軍服姿の猫娘に変わる。
青年は猫娘を従えて高志才智に向かって歩いて行く。
「地獄の井戸を開いたのはキサマか高志才智」
高志才智は首を傾けて青年をにらむ。
「お前…何者だ?」
白い軍服の青年はカードのような呪符を取り出した。
「私は地獄の副将軍、小野篁」
〜58魔道士襲来 〜完
【年表】
◼ 573年高句麗の使者が越の海岸で難破。
◼ 574年高句麗の使者が再来。
(王辰爾が烏羽の表を解読?)
◼ ︎645年蘇我入鹿暗殺
◼ 649年、阿倍内麻呂死亡
(=φωφ=)あとがき。
> 道服を着た屍鬼
文章で書くと何やらワカランですが、いわゆるキョンシーです。
> 地獄の副将軍、小野篁
小野篁が連れているのは餓鬼と猫又(小獅子)の軍勢ですね。
あと、もう忘れてると思いますが、天魔将軍は主人公のタスク君です(笑)
>名探偵、額田姫王
今回も大活躍でした。
次回もお楽しみに!




