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40 革命家 軽皇子

 【登場人物】

 中臣鎌足(カマ様)

人間に転生した天魔の神『天狐(あまつきつね)

自在に飛行する鎌を使い、人間体の能力だけで鬼人や魔物を圧倒できる身体能力を持つ。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)

中大兄皇子の妻であり、神の歌「言霊」を使う少女。

琵琶湖の龍王女の転生体である。


 葛城皇子(中大兄皇子)

女性と見まごう白く美しい外観に凶悪で残酷な内面を持ち合わせる。

額田姫王や倭姫王の夫であり魔族を率いる魔王でもある。


 チビコマチ(小野小町)

額田姫王に歌を学ぶため飛鳥時代に連れて来られた平安時代の少女。

巫女舞風の装束を身にまとい「言霊」を使う。


 厳 (ゴン)

なぜかチビコマチのお手伝いさんをしている片目の杣人(そまびと)。普段は春日の森で鬼神の塚を守る野守である。


 鈴鹿御前(倭姫)

天照大神の依代であり第六天魔王の一人。

なぜか高位天魔を人間に転生させて飛鳥の都に集結させている。

この時すでに五百歳を超えている美女。


 軽皇子の屋敷の大広間にはすでに王侯貴族が居並び、

その中央の席に黒い上着をゆったりと着こなした堂々とした貴人が座っていた。

 皇族の中でもリーダー的な存在なのであろう。長身で長くヒゲを伸ばしたその貴人は何人かの僧侶や学者らしき人物と異国語で語り合っていた。年齢は四十を越えたくらいに見える。


「やあ、よく来てくれた葛城皇子、大海皇子」

 長身の貴人は大きく両手を広げて自分の隣の席へ招き入れる。

 ※ 葛城皇子:中大兄皇子の諱


 あれが軽皇子…


 見たところふつうの人間に見える。

いや…魔物は中大兄皇子の周辺のみに固まっているだけか。

 倭姫(やまとひめ)の姿が頭に浮かぶ。


 (葛城皇子(中大兄皇子)の周囲に魔物を集めて御前は何をしようとしておられるのか?)


 軽皇子の隣の上座に葛城皇子と大海皇子が着席し、その後ろの壁際に額田姫王(ぬかたのひめみこ)とカマタリは着座した。

 横目で見ると額田姫王(ぬかたのひめみこ)はすでに(りん)とした貴人のたたずまいに戻っていた。

 (さすが強い娘だ)

カマタリは少し安心した。


 先ほどの無表情な少女がゆらりと背後から軽皇子に抱きつく。


 ん?

カマタリは目を丸くする。


「やあ、義弟(おとうと)たちを呼びに行ってくれてありがとう。間人(はしひと)

軽皇子は微笑むと少女の手を取り隣に座らせた。


 え?間人(はしひと)皇女!


 間人皇女(はしひとのひめみこ)

葛城皇子(中大兄皇子)の妹である。

 『間人(はしひと)』とは神祇の『中臣(なかつおみ)間人(はしひと)』に育てられた皇女(ひめみこ)を意味すると言われる。

 彼女もまた母親の皇極天皇の様な強力な霊性を持つ巫女であったのだろう。


 そして間人皇女(はしひとのひめみこ)こそ軽皇子の妻であった。

……という事は…

 先ほど輿(こし)の上で全裸のまま無気力にカマタリを見ていた間人皇女(はしひとのひめみこ)(はかな)げな瞳を思い出した。


 (あれが皇女?まるで葛城皇子の操り人形に見える)

 カマタリが少し険しい表情で二人を見ていると横から額田姫王(ぬかたのひめみこ)に肘で脇腹をトンと突かれる。

「ん?」

「キチンと座りなさい」

「え…ああイカン」少し考え過ぎたようだ。カマタリは身を正した。


 額田姫王(ぬかたのひめみこ)が袖で口元を隠しながら少し顔を近づけて来る。

「それから、さっき見た事は全て忘れなさい」


「さっきって……え〜と」

カマタリはあの輿(こし)の上で額田姫王(ぬかたのひめみこ)の姿を思い浮かべた。

 美しい裸体が広げられ、目の前に彼女の花びらが…

いきなり脇腹をズン!と肘で突かれる。

「ぐおっ!」


「それ以上思い出したら殺すわよ」

額田姫王(ぬかたのひめみこ)の瞳がギラリと青く光った。

「はい…」

とりあえずカマタリは天井を見上げて何も考えない事にした。


 軽皇子が皇族やら魔物やらを集めて何を話し始めるかと思えば、語り出したのは壮大な国家プロジェクトだった。

 

「今、海の向こうの大陸では「唐」という新しい国家が誕生し、百済や高句麗も武力で平定しようとしている。その唐の強さは義にある。厩戸皇子が遣いを送った隋はわずか二代で滅びた。それは信義が足りないからではないか」


 ふむ、とカマタリはうなずいた。

大国である隋が倒れたのはカマタリも知ってはいた。かなりの悪政だったと聞く。

どんな超大国でも君子と民衆の間に信義が無ければ、いずれ倒れる。

「日没する処の天子」か。

 厩戸皇子は隋の命運が長く無い事を予見していたのかも知れない。


「問題は新羅だ。新羅は唐に取り入り百済への侵攻を焚きつけていると聞く。


 「百済はすでに滅びておると聞きます」

葛城皇子が白い顔を傾けてポツリと言った。


 座がざわめいた。まさか一国の皇子が隣国を滅びたなどと軽々しく言って良いものではない。


「百済の良くない噂は麿(まろ)も耳にした事があるが、その言い方ではすでに滅びたように聞こえてしまうな葛城皇子」

軽皇子は義弟をなだめる様に言う。


 末席に居た、ひときわ(きら)びやかな立派な若者が発言する。

「軍事、外交の方は技術のある者を(カラ)※から呼び寄せ、抜かり無く進めております。

鴻臚寺(こうろじ)(※迎賓館的な役割をする隋の寺院)を拡張し、また、いざ有事となれば神宮に武具、兵士を集め、仏寺を城塞として転用できる様に職工の育成を進めております」


 こりゃすごい。理路整然として丁寧でありながら空きが無い。恐ろしく頭が良い。何者であろうか?


「寺を城の代わりにするとは厩戸(うまやど)皇子の戦術であるな」軽皇子はうなずいた。


 (え?そうなの?)

厩戸(うまやど)皇子。つまり聖徳太子がそのような軍事的思想で寺社建築を広めていたとはカマタリも初めて聞く話だ。

 やはりあの仏教建築風の建物は城の役割もあったのか…カマタリは豪壮な門扉の瓦屋根や頑丈な築地塀を思い出した。

 なるほど、大陸式の強い塀で囲われ、耐火性に優れた瓦や土の屋根や壁を使い、見晴らしの良い高い塔を持つ巨大施設ならば、一時的に立て籠るには充分であろう。


「善く守る者は、九地の下に(かく)れ、善く攻むる者は九天の上に動く、故に能く自ら保ちて勝を全うするなりと申します。斑鳩においては沿岸方向に寺社の既存数を増やす事により防衛力を海外に誇示でき…」

若者はスラスラと軍備や防衛に関する現状と具体的な対策や数字を挙げていく。


「ほう、孫子か」

カマタリは思わず感嘆の声を出してしまい、額田姫王(ぬかたのひめみこ)に袖で口を押さえられる。


 若者は驚いた顔でカマタリの方を振り返り見た。

 周囲の貴人たちもカマタリの方を向く。


「あ!いけねぇ」カマタリは口を押さえられたまま天井を向く。

 額田姫王(ぬかたのひめみこ)は眉間にシワを寄せてうつむいていた。


(こりゃ帰ったらまた説教だな…)


「ではイルカの大臣(おとど)、それほどの兵法と軍事力があるなら、ぜひとも我が朝のためにその武威をお見せいただけすかな!」

 軽皇子が悠然と切り出すとイルカは急に険しい顔になった。


 (イルカ…大臣の蘇我の偉留華(イルカ)か!)

カマタリは唸った。

 どうりで只者(ただもの)では無いはずだ。

しかも(カラ)の軍学にも通じている。

さすが一国を担う大臣と言える。

(※ (カラ):この場合は中国、高句麗なども含む)


「それは…兵を挙げよとの仰せですか?軽皇子」

蘇我のイルカは眉を顰めた。


 なるほど、これほどの皇族や貴族が集まる理由はこれか…

 おそらく軽皇子は何か紛争を企んでいるのであろう。

 だが女帝である寶女王(たからのひめみこ)(皇極天皇)の皇子や皇女たちが集まっているのであればクーデターとも思えない。

 だとすれば軽皇子たちは、いったい何を相手に挙兵するつもりなのだ?


 葛城皇子がゆったりと背にもたれかかりながらイルカに言葉をかける。

「相手もまた厩戸(うまやど)皇子の流れを汲む兵法家。相手にとって不足はあるまい」


 厩戸(うまやど)皇子…?

まさか『山背大兄王!』


カマタリが目を見開くと葛城皇子がユラリと振り返り、白い顔を傾け少女の様に微笑んだ。



〜40「革命家 軽皇子」〜 完



 (=φωφ=)あとがき。

はい、またまた壮大に脱線して行きますが剣豪小説です。……です。


 > 蘇我の偉留華(イルカ)

蘇我の入鹿さんですね。少しカッコ良い漢字にしました。


 > 隋

「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す」大帝国隋はわずか四十年で幕を閉じます。

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